暗黒底流

The Monkey's Fist

ウィリアム・D・ピーズ / 文藝春秋 / 99/01/10

★★★★★

力作

 『密告遊戯』と『冬の棘』のウィリアム・D・ピーズの3作目。この2作はそれぞれ非常に良かったが(細かいことを忘れたが、特に『密告遊戯』はかなり興奮した気がする)、この3作目は文句のつけようのない優れた国際謀略小説になっていた。

 退職した元殺人課刑事が、商社マンとその妻の変死事件の調査を引き受けるが、彼らの元から消えていたクレジット・カードを発見し、調査依頼者に報告した直後に襲撃を受ける。元刑事が反撃に出ると、その背後に巨大な国際的陰謀があることが判明する。

 この国際的陰謀はかなりリアリスティックに描かれていて面白いのだが、何よりもいいのは、その陰謀の網があまりに複雑であるため、どの関係者も全体像は把握しておらず、その結果、その陰謀の全体像が徐々にしか見えてこないようになっている点だ。

 そういうリアリスティックな陰謀ではあるのだが、元刑事の反撃はかなり劇画調で、ほとんどふざけている。ブライトン・ビーチで襲撃者の片割れを尋問するところとか、重要証人の居場所を突き止めるそのやり方だとか。しかし何よりも驚いたのは、彼が最終的にとる解決手段である。こういうタイプのシチュエーションはよくあるけれども、こういう解決方法はいままで見たことがない。

 そして、最後の解決からエピローグにかけての奇怪な終わり方も面白い後味を残している。関係者一同の間で1発の銃声が聞こえるのだが、誰が撃たれたのかはわからず、エピローグを読んで、誰が生きているのかを確認して「引き算」をしないと犠牲者は判明しないようになっている。そしてその犠牲者が、まあ論理的に考えたら当然とも思うが、でもやっぱりかなり予期しがたい人物なのだ。おそろしくひねくれたユーモア。

 この人はたぶん最もインテリジェントな現代ミステリ作家の1人だろう。

1999/1/27

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