イルカとぼくらの微妙な関係

川端裕人 / 時事通信社 / 97/08/10

★★★★

見事な新しいジャーナリズム

 イルカと出会うために自ら出向いて旅をした著者のエッセイ集。著者は『クジラを捕って、考えた』の人。

 この本を読んで、正直いってかなりの衝撃を受けた。これこそが次世代の、というかポスト・オタクとでもいうか、新しいジャーナリズムであると思った。もちろんこれは、この著者がとても珍しい人だということでしかなく、別に世代とは何の関係もないのかもしれない。

 イルカ、クジラ問題は、結局のところ、人間と自然の関係を「どの立場から見つめるか」という問題である、というか、実際に漁場がイルカに荒らされる漁師とか、遠洋漁業で儲けている水産業者でもない普通の人々にとっては、そういう問題として認識せざるをえない問題であり、そういう人々にとっては、上記の漁師や水産業者をどう見つめるかという問題にもなる。そのときの立場の取り方がきわめて「次世代」的に感じられる。物事をサイエンティフィックに見つめるが、かといって機械のように冷徹なわけでもない。過度に政治的ではないが、政治的になった方がいい局面では政治的にもなりうると予感させる。そのバランスのとりかたがとても気持ちよい。

 しかし、それと同時に、この本の立場は何かしら社会にインパクトを与えるには生ぬるいという感じもした。じっさい、この本を読んだ日本人の多くは、この本の焦点がぼやけていると感じ、捕鯨推進派の書いた本や、イルカと神秘的なコミュニケーションを行う人の書いた本などの方にリアリティを感じるのではないかという気がした。というよりも、そうなるだろうという予感が強くするからこそ、この『イルカとぼくらの微妙な関係』のような「微妙」な本は、一般に出版にこぎつけることが少ないのだろう、と改めて思ったわけだ。

 いずれにせよ、この本はとても面白い本だし、特に壱岐で網を破って有名になったデクスター・ケイトのエピソード(「ケイトの青春」)は、壱岐島の後日談も含めて重要な記録だと思う。

1998/4/8

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