ぼくに「老後」がくる前に

老人体験レポート

永井明 / 飛鳥新社 / 99/03/04

★★★

興味深いがちょっと拍子抜け

 永井明が老婦人になって街を歩いてみるという企画。普通の変装潜入ルポとは異なり、体に重りをつけ、眼鏡を外し、耳栓をするなどして、老人の肉体をシミュレートしている点が珍しい。また医者としての知識を活かして、随所で人の体がどのように老いていくのかを医学的に解説しているところも面白い。

 しかし全体的にみて、企画書を読んだときに想像するであろう内容とのギャップがはなはだしく、何かうわっつらを撫でただけに終わったという感じが拭えない。「変装していることを気づかれるか」という文脈と「老人はどのような主観的生活をしているか」という文脈がうまく融合しておらず、どっちつかずになっている。そもそも後者については、街に出ていってそこらへんを歩いている老人にインタビューした方が、あるいは本物の老人に本を書かせた方が「正しい」わけだし、前者についてはメーキャップ担当が上手だということで終わるわけだから。あと、現在、この国において老人に注がれるまなざしはきわめて差別的なものであるわけだが、この本は意図的にではないだろうが、そのような差別を強化する向きに働いているような気もする。なんというか、非老人が老人から言葉を奪っている、わけで。永井明は自分がほんものの老人になったときに、この本の続篇を書くべきだろう。そのときに、まずいこと書いてたなと思うところがいくつか出てくるんじゃないだろうか。

1999/2/14

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