裏切り

野村証券告発

大小原公隆 / 読売新聞社 / 99/01/12

★★★★

内部告発を行った著者による半生記

 野村證券の元法人営業管理部課長代理である著者は、不審な取引を発見し、告発した。これが一連の総会屋への利益供与スキャンダルの発端となった。まあその人がいろいろと書いている。

 著者は、すでに退職はしているし、内部告発を行ったわけではあるけれども、自分では元野村マンというところにアイデンティティの一部を見いだしているようだ。野村證券という会社自体は良い会社であるが、総会屋とのつながりなどはトップの一部の私利追求なのであり、他の社員は犠牲者であるという立場である。このあたりの構図は、細かいところは違うけれども、オウムの信者が書いた『オウムはなぜ暴走したか』と似ていて興味深い。さらにいえば、日本国帝国の一部の元軍人が太平洋戦争を振り返るときの立場にも似ている。別にこの3つの組織とそれが経験した事件に本質的な共通性があるといいたいわけではないが、組織に属していた人がそこから離れたときの振り返り方のパターンが共通していることは確実である。

 しかし、この本の著者はかなり立ち回り方を考えているという点で、凡百の告発者とは一線を画している。事件を発見した後の告発の仕方、記者との関わり方などのいろいろな点で、それらが本当に満足できるほど成功したかどうかは措いといて、能動的な行動をしているのだ。だからこの本自体も、そういう立ち回りの1つにしか見えない。実際、この本が何を書き、何を書かずに済ませているか、誰を攻撃し、誰を守ろうとしているかということが、この一連の事件を理解するための鍵となるという感じがした。しかし事情関係に疎いので詳しいことは私にはわからない。

 要点をいくつか。

 著者は、法人営業管理部という内部監査的な機能を果たす部署にいたときに不審な取引を発見した。これは1991年頃にスキャンダルとなった損失補填問題を反省して作られた部署だった。しかし、総会屋とのつながりはその後も続いており、法人営業管理部にいた著者はその痕跡を発見した。その取引はまさに法人営業管理部のラインの上にいる取締役が関与して行われていたものだったので、結果として組織ぐるみの隠蔽が行われた。じゃあなんで法人営業管理部なんて作り、そこに俺を配属したんだ、という怒りが、この著者をして告発に至らしめた原因の1つだったのだと思われる。

 明示的に書かれているわけではないが、実のところ著者の怒りの一番大きなところはここにあるのであり、社会的不正義が行われていたという抽象的な観念に基づいているものではない。だから、この仕組みを誰がどのように作ったのかという詳しい解説には描写が及ばない(少しはあるけれども)し、意図的にそこらへんの印象を薄めようとしている気配がある。

 他にも、告発を受けてぜんぜん動かなかった警察の怠惰さ、反撃に出た野村證券側の手口の面白さ(まったく別の詐欺事件を刑事事件にしたてあげて逮捕させる)、ジャーナリストの相変わらずのふざけた姿勢(例の、横並びの中での微妙なヌキ合いというやつ)など、謀略小説じみたサブプロットがいくつかあって面白い。

1999/2/14

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