〈対話〉のない社会

思いやりと優しさが圧殺するもの

中島義道 / PHP研究所 / 978/11/04

★★★

うーん、やはり西洋かぶれ知識人か

 日本の社会は「対話」を圧殺する社会である、と論じる本。いろいろと文句を言いながらも、この著者の本はずいぶんと読んできた。『うるさい日本の私』『カントの人間学』『哲学の道場』『人生を〈半分〉降りる』『哲学の教科書』『哲学者のいない国』『孤独について』『うるさい日本の私、それから』、そして本書である。

 ほとんどの本で、著者の身の処し方に欺瞞を感じる。それは、「孤独がいい」と言いながら大学教員としての生活を続けている、「本当の哲学はこんなものではない」と言いながら本流の哲学を再生産しているように見える、「周囲の音がうるさい」と言いながらうるさい商店街を通るようなところに通勤し、そのようなところに住んでいる、「人生を半分降りるのがよい」と言いながらこれらの本を書いている、などなど。しかしそれでもこれだけ読んでいるということは、どこか気になるところがあるんだろう。それはおそらく、社会不適応者のもがきを代わりに演じてくれている、というところにあるんだろう。

 私が思うに、この人は本人がそう思っているよりはずっと平凡なところに問題の源泉があるのだけれども、それを平凡であると自ら納得することなく、閉じた回路で変な方向にいってしまっているところが非凡である。実のところ、現代はこういう人をも救済してくれる時代なのだ。オタク化という道があるからだ。しかし残念ながらこの人は世代的にその時流に乗りそこねてしまった。しかもおそらくこの人の属するコミュニティ(すなわち日本の哲学界)は意外なことにそういうのを許容しないところなんだろう。これが理系研究者だったら、たぶんずっと幸せになっていたはずである。

1999/2/23

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