ヘッジファンドの素顔

Hedge Funds and Financial Market Dynamics

IMF / シグマベイスキャピタル / 99/02/10

★★★★★

非常に興味深いIMFによる報告書

 1997年のアジア通貨危機をきっかけとする一連の騒動を受けてIMFが作成したレポートを訳したもの。翻訳に少し不安があるが、非常に面白い本で、ヘッジ・ファンドに関する基本的な情報をたんねんに記述した内容になっている。

 帯には「世界を舞台に巨利を漁るヘッジファンドビジネス。今、そのヴェールが剥がされた」という煽動的な文句があるが、その内容は実のところかなり穏健なものである。『ヘッジファンド』の著者のような陰謀理論家は、IMFがヨーロッパのユダヤ系の資本の手先であるヘッジファンドに支配されているなどと言うかもしれないが、この本でのIMFの暫定的結論は、世の中でヘッジ・ファンドについて言われていることの多くが当たっていない、ということである。ただし、本書でも再三述べられているように、ヘッジ・ファンドの活動についてはわかっていない部分が多く、この本の穏健な結論も、表に出てきている情報だけをもとに得られたものだという限界がある。

 いくつか興味深い話。

 現代のいわゆる「ヘッジ・ファンド」の定義は曖昧で、統計をとるときにそもそもどれをヘッジ・ファンドに入れるかという問題に突き当たる。現代の投資機関でヘッジングを行っていないところなどほとんどないわけだ。

 ヘッジの取り方としてトップダウンのアプローチ(マクロ)をとるやり方とボトムアップのアプローチ(アービトレージ)をとるやり方などという分類は可能だが、ファンド・オブ・ファンズなどは両方のタイプのファンドを混在させるわけだし、そうでない普通のファンドでもアプローチは混在する。さらに、ファンド・オブ・ファンズの存在は、「ヘッジ・ファンド」が運用している資金が二重にカウントされる可能性があることを示している。このことは統計情報の信頼性を低下させる一要因となっている。

 本書を読んで受けた印象として、世の中のいわゆる「ヘッジ・ファンド」を一番特徴付ける特性は、ファンド・マネージャが出来高で報酬を受け取ることと、ファンド・マネージャが自分のファンドに自分の資産を投資することの2点なんではないだろうか。これは本来の「ヘッジング」とは何の関係もない特性だが。

 ヘッジ・ファンドの上記の特性により、ファンド・マネージャには特定のインセンティブが生じる。このことが、通常の見方とは違って、ヘッジ・ファンドがマーケットの暴走を防ぐ方向に働くことの原因となっている、というのが本書の見解である。ファンド・マネージャは、マーケットが本来の価格を越えて触れたと思ったときに、マーケットとは逆のポジションを取る傾向にある、ということだ。ベンチマークを基準とした相対的成績で評価されるファンド・マネージャは、このようなポジションは取れず、多くの場面でトレンドに追随するしか選択肢がない。

 ヘッジ・ファンドは一般に小規模なので、小さいマーケットを丹念に調査することはできない。つまり一般に、ヘッジ・ファンドはマーケットに関する情報の提供者ではなく消費者である。このため、ヘッジ・ファンドは一般に言われているようにつねにマーケットのリーダーとなるわけではなく、むしろフォロワーになることが多い。本書はこのことを実証的に示している。

 統計上の問題はいろいろあるにせよ、ヘッジ・ファンド全体の規模は、その他の投資機関と比べれば小さいものなので、マーケットにそれほどの直接の影響を与えるとは考えられない。

 いくつかの通貨危機のケースで、最終的な崩壊の引き金になったのは、むしろその国の国内投資家の動きであるということが実証的に示されている。これは、そのような国では、さまざまな規制によって、海外投資家が自由に動けないことが多いからだ。

1999/2/23

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