Thinking in Pictures

And Other Reports From My Life With Autism

Temple Grandin / Vintage Books / 95/01/01

★★★★★

驚くべき自閉症患者の自伝

 著者は動物心理学者の自閉症患者。オリバー・サックスの『火星からの人類学者』で取り上げられていた人。サックスによる序文がある。自閉症はautismだが、日本語の訳語は変えた方がいいのだろう。細かい病名(アスペルガー症候群など)はそのまま使えばよいが、総称としては「オーティズム」とするのがいいのかもしれない。

 自閉症の患者の症状にはバラエティがあるので、この著者の主観的状態に関する記述をそのまま一般化するのはまずいらしい。しかしこの本の素晴らしいところは、自閉症患者の主観的状態が描かれ、それが客観的な学術研究の文脈の中に位置づけられていることにある。この人は、言語的な能力が乏しいが、その代わりにビデオ映像のような記憶を持っている。フォトグラフィック・メモリーと呼ばれているものだが、この映像は、自由に部分部分を入れ替えたり、見る角度を変えたりできる超高品質の立体グラフィックス・プログラムのようなものである。このことが著者の仕事である屠場の建築物の設計に大いに活かされている。設計図のレベルで、その建築物がどのような構造になるかをきわめて正確に頭の中で「見る」ことができるため、屠場の通行路を通る家畜の視点から見た図を思い描くことができる。要するに3D CGのウォークスルーみたいなことをやるわけだが、コンピュータ・グラフィックスというものがまだ存在しなかった時期の、同じような能力を持っていた自閉症患者たちは、このようなことを発想しえただろうか。

 著者は、この仕事に有利な点がもう1つあると言ってる。自閉症患者は言語の能力を奪われているがゆえに、屠場で処理される動物がどのような主観的感情を抱くかということを、より理解しやすいと言うのである。屠場で処理される牛、馬、豚などの草食動物は、被食者としての敏感な感覚を持っている。この感覚に不適当な刺激を与えないように屠場を設計すれば、動物たちは大騒ぎをせずに処理ラインに向かっていく。著者は自閉症患者であるがゆえに、このような感覚のあり方を理解しやすいので、彼女が設計したシステムはアメリカで屠殺される動物の1/3をカバーするほどのシェアを獲得するに到った。これは、当人以外の人が口に出したら大変なことになりそうな危ない論理ではあるが、この本を読んでいると、当人はこの論理のpolitical correctness上での危険性に気づいていないんではないかと思えてくる。

 この本は、自閉症とその治療法に関する研究の成果などにも詳しく触れている。詳しいことはよくわかっていないのだが、大雑把にまとめると、著者の立場は、「自閉症とは脳の知覚を司る部分の異常を原因とする、幼い頃の発育不良」だということになる。認知とか知的処理の部分の異常は、知覚の部分の異常と一緒に起こることはあるかもしれないが、自閉症の必要条件ではない。このことと、言語能力が持てないということ、ひいては著者の持つフォトグラフィック・メモリーがどのような関係にあるのかは不明である。

1999/3/7

 未確認だが、学研から出ている『自閉症の才能開発』がこの本の訳書か? しかし、この本の翻訳は非常に難しそうだ。感情の面で問題を問題を抱えている自閉症患者の文章は「普通」の文章にはならない。著者は「普通」の文章を書けるようにトレーニングをしたらしいのだが、それでもこの本はハードボイルド文体とでも形容できそうな微妙な雰囲気を持っていて、そのことが本の魅力の1つとなっているのだ。この本はノンフィクションではあるけれども、芸術/文学作品として刺激的であるというか、文章という表現手段の非常に根源的なところに迫っている感じがする。

web上の書評を発見。

1999/10/29

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