オリンピックの汚れた貴族

The New Lords of the Rings: Olympic Corruption and How to Buy Gold Medals

アンドリュー・ジェニングス / サイエンティスト社 / 98/02/10

★★★

重大な問題を扱っているのだが、やたらチープな本

 国際オリンピック委員会の腐敗を描いたノンフィクション。監訳者まえがきによると、前作の"The Lords of the Rings"(邦題は『黒い輪 - 権力、金、クスリ オリンピックの内幕』光文社発行)では、「調査報告の情報源や出典等がほとんど明示されておらず……憶測や作り話でないかという指摘や批判を浴びた」。で、その批判を受けて書き直したのがこの本だそうである。

 それなのにこの本はいかにもチープである。「本文の下訳はプロの翻訳家に依頼し、肩の凝らない、読みやすい文章表現とした」とあるが、このチープな訳文もその雰囲気の醸成に一役かっている。とても、もったいない。

 本の内容は別に驚くようなことではなく、要するにまあIOCは無茶苦茶なわけだ。この体質はある意味で日本との親和性を持っているということに気づいた。サマランチ会長のファシスト的体質との親和性もかなりあるかもしれない。日本のエスタブリッシュメントの硬直ぶりや不透明性を批判するアメリカ人には、オリンピックを例にとって説明してあげると便利かもしれない。ジャーナリズムが結果的に乱脈ぶりを報道できないできるという状況もそっくりだ。

 今回の長野オリンピックを見て思ったことの一つ。今回からスノーボードが正式種目に取り上げられたが、これによって(これだけが原因ではないと思うが)明らかにスノーボードの「正しい型」というものが確立された。特にハーフパイプはそうで、レイジーなスタイルでの滑りは「よくない型」として排除されることになっただろう。私はスノーボードをやるわけでも、観戦しているわけでもないので、別にどうだっていいのだけれども、ESPNで比較的頻繁に放映している番組に"X Games"というものがある。この"X"はおそらく"Generation X"からとったもので、既成の枠にとらわれないいろいろなジャンルのスポーツを取り上げていて、マウンテンバイクを使った曲芸みたいなのとか、車椅子を使ったラリーなど(まあこれらは相対的に見ればまだメジャーといえるが)、およそ真面目な「スポーツ」には分類されないような競技の大会の様子を紹介している。

 これを見ると、「スポーツ競技」の発生の初期の段階を見ているのだなという感じを受ける。もちろん、大会なるものが開催される時点で、それはすでにスポーツ用品会社などの資金を使ってやっているので、商業化はすでに始まっているのだけれども。こういう競技での自由度や技の独創性には目をみはるべきものがある。オリンピックの正式種目に取り上げられた競技は、もちろん少しづつは進化していくにせよ、こうした自由度は大幅になくしてしまうのだろう。スキーのジャンプ競技のV字飛行への移行に、それが発見されてからかなりの期間がかかったことなどはその一例である。

 で、IOCについては……。やっぱりオリンピックは廃止した方が「健全なるスポーツ」のためにはいいのだろうけれども、どのみち誰もオリンピックにそういうものは期待していないんじゃないの、というのが、この本を読んだ感想だった。

関連サイト

Colorado Springs Independentの記者による記事

1998/4/10

 なぜかこの数週間、2002年のソルトレーク・シティの冬期オリンピックをめぐるIOC委員の買収問題をめぐって騒動が起きている。日本のメディアとしては、アメリカでこれだけ注目されているので、日本で報道してもOKという感じになったみたいだ(なんとも情けない話だが)。なぜいまここになって、という釈然としない気持ちも残るが、こういう局面で事態を大きく進展させるだけの力を持ったアメリカという国はやはり偉い国だという感想が出てこざるをえない。仮に、仮にだよ、長野オリンピックでこの類のスキャンダルが日本国内で発覚していたとしても、その騒動がIOC本体にまで波及していただろうか?

1999/1/23

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