ダーティー・ハンズ

Dirty Hands

ジョセフ・ナイ / 都市出版 / 99/04/24

★★★★

権力に惹かれる男を描いた秀作

 著者はカーター政権下で国務次官補、クリントン政権下で国防次官補を務めた、「ナイ・イニシアチブ」のナイ氏である。もともとは学者であるが、政治的な任命によって実務畑の経験をしている。学者や政治家が書くフィクションはつまらないものが多いから、この本も大したことはなかろうと思っていたら、かなり面白かったので驚いた。

 この本の目的は、政治学の学者が政府での仕事を得て、そこで働く過程で、権力の魅力に捕われていく様子を描くことにある。まあサブプロットはいろいろあるけれども、それらはやっぱり素人の小説なのであまり大したことはない。登場人物たちが語る哲学や理想も、まあ学者や政治家らしくきわめて素朴だ。しかし、アメリカの政府の権力がどういった感じのものなのか、ひとはそれにどのように引きつけられていくのか、という点の描写は、さすがに経験者だけあってきわめて説得力があり、面白い。

 ただし、こうしたものはもしかしたら世の中のサラリーマン向け企業小説にちょくちょく見られるものなのかもしれない。取締役同士の喧嘩と、手先となる部長たちの暗躍みたいな。読んでいないから知らないけれども。

 なお、この本の翻訳には大きな問題がある。登場人物たちが、大阪弁や、何か正体不明な東北あたりのものと思われる方言をしゃべるのである。アメリカ各地の訛りや言葉を日本の方言に移しているわけなんだが、この手法に問題があるのは明らかだろう。訳者は何か『日本文化を英語で語ろう』とか『外国人の疑問に英語で答える本』などのタイトルの本を書いているが、大丈夫なのか?

1999/8/22

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