エルニーニョ

自然を読め

Currents of change: El Nino's impact on climate and society

マイケル・グランツ / ゼスト / 98/03/20

★★★

エルニーニョという現象をわかりやすく解説した好著

 1997年から98年にかけて、全世界的に大きなダメージを与えていることで注目されているエル・ニーニョ現象をわかりやすく解説した本。著者は米国大気研究センター上席研究員。原題の副題、"El Nino's impact on climate and society"にもあるように、気候だけでなく、人間の社会的営みにも目を配っているという点で、非常に面白かった。

 面白かったエピソード(155ページ)。1531年にフランシスコ・ピサロがペルー侵掠を開始したとき、ちょうどこのエル・ニーニョを原因とする雨が降っていた。この雨が降っていなければ、征圧の途上で食料と水を確保できなかっただろう、という。

 とりあえず29ページにある、著者によるエル・ニーニョの定義を引用しておこう。

 (1) 幼子のキリスト。(2) ペルー沿岸に季節的に発生する南向きのあたたかい海流に対して、ペルーの船乗りがつけた名前。(3) ペルー沿岸に通常みられる冷水(湧昇)域に、たまに暖水がもどってくる現象につけられた名前で、この現象がおこると、海岸地方の魚と鳥の個体群が消滅する。(4) 太平洋赤道域の中部、東部、あるいはその両方における海面水温と、西太平洋の海面大気圧の上昇に対してあたえられた名称。(5) ENSO(エルニーニョ・南方振動)をさす言葉で、太平洋赤道域の大気と海水の相互作用の変化のこと。

 定義の細かい内容は24ページから。簡単にまとめておくと、スペイン語のel ninoは少年という意味で、これをキャピタライズしたEl Ninoは幼子のイエスという意味である。ペルー人は、定義(2)のような現象がちょうどクリスマスの時期に発生することに気づいて、これにエル・ニーニョという名前を付けた。人々が、この現象が魚と鳥の個体群に大きな影響を与えることを意識しはじめたのは、化学肥料の原料となる糞をもたらす海鳥と、ペルーの代表的な漁獲物であるカタクチイワシが、経済的な理由から重視されたからである(それぞれ19世紀末と、20世紀中頃から)。

 この現象のメカニズムが(4)のように解明されたが、このメカニズムは、ペルーに限らず、海と陸地の位置関係によって(太平洋赤道域の東側にある陸地の西海岸で)普遍的に存在する。そして、この現象が、太平洋のはるか離れた場所の海面水温と連動していることが発見された時点で(このような連動をテレコネクションと呼ぶ)、(5)のENSOという言葉が発明される。いま世界的に大変なインパクトを与えている現象は、この「ENSO」という言葉で呼ぶのが適切なのだが、説明するのが面倒なので一般に「エル・ニーニョ」と呼んでいる。ENSOなどのグローバルな気候現象の研究は、現在も進行中である。

 エル・ニーニョを予報する試みと、その予報を使った対策などに関する言及が非常に興味深い。著者は、ENSOの研究が、実際に役に立つ科学であるということを強調していて、特に近年のエル・ニーニョがどのように予報され(かなり外れてるのだが)、それを受けてどのような対策が行われたかなども紹介している。

 この本が書かれたのは1996年だが、日本語版のために、97〜98年のエル・ニーニョに関する記述が追加されている。いい本である。

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1998/4/10

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