死者の日記

Termination Dust

スー・ヘンリー / 早川書房 / 99/03/31

★★★★★

アラスカを舞台にした興味深いシリーズ

 著者のデビュー作は『犬橇レースの殺人』という、アラスカの犬橇レースが進行していく過程で殺人事件が起こり、それが解決されるという、古典的な旅ものの構成をした非常に面白い作品だった。普通の旅ものでは、列車とか船などの準密閉空間が舞台として使われるわけだが、犬橇レースは苛酷な自然の中で行われるスポーツなので、実質的に準密閉空間になるのである。中間のチェックポイントが開放空間になるというおまけもついて、物語の構造と犬橇レースの特徴を意識的に組み合わせた、とてもトリッキーな小説だという印象を受けた。それだけでなく、登場人物たちも魅力的だった。

 この2作目の『死者の日記』では、犬橇レースの参加者として活躍した女性、ジェシーが、殺人事件を担当したジェンセン巡査部長の恋人となっている。このジェンセン巡査部長と、カナダ騎馬警察隊のデラフォス警部が、ユーコン川沿いで起こった殺人事件の捜査を行うというストーリー。

 今回は、物語的なトリックとテクニックの部分にはあまり見るべきものがないが、それを補って余りあるのが細かい部分の豊かさである。登場人物たちの魅力、小説全体の基本的なトーンを決定する100年前の日記、そこから湧き出てくるアラスカの歴史と自然の壮大さなどなど、どっしりと構えた本格的な小説という感じがする。このスー・ヘンリーという人はただものではない。未訳のものがまだ3冊あるようなので、楽しみだ。

 なお、アラスカものでは、デイナ・スタベノウのケイト・シュガック・シリーズが安定しているが(『燃えつきた森』)、あちらが騒々しい印象なのに対して、こちらはずっと知的である。

1999/8/22

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