科学の目 科学のこころ

長谷川真理子 / 岩波書店 / 99/07/19

★★★

科学エッセイ

 岩波書店の『科学』に連載されたエッセイをまとめたもの。科学エッセイの難しさを改めて感じた。この人はかなりバランスの取れた人だと思うのだけど、そのこと自体がエッセイの限界を定めている。

 わかりやすい例を挙げると、この本に収録されているエッセイの中には、疑問形で終わるものが非常に目立つ。「ではなぜ人間の思考はコンコルドの誤りを犯しがちなのだろうか? この誤りには、何か人間の思考形態に深くかかわるものがあるように思われる」。「また、動物の雌の配偶者の選り好みに、雄の形質の左右対称性が使われているとすると、ヒトでも、女性の方が男性よりも左右対称性に敏感にできているだろうか? 生物およびヒトにおける対称性のもつ意味の研究は、まだまだ広がりそうである」。「さて、国際社会の軍拡競争は、どういう原理で動いているだろうか」。「そうではなくて、科学という考えがなぜ出てくるのかということについて、もっと学校教育で教えられないものだろうか?」。「このことについて、専門の科学者たちが答えを出しえていないのではないだろうか?」

 メッセージは、「わからない事柄はいろいろあります。あなたも考えてください」ということだろうと思うんだが、エッセイとして非常に無責任な印象を与えるのである。もちろんどの疑問についても明確な答えを書いたら嘘になってしまう、という自己規制が働いているのだろうけれども。敢えて嘘を書く科学エッセイは嫌いだが、それを避けるとこうなってしまうのか、という発見。

 その他、明確には書かれていないけれども、「文科系フェミニスト」との衝突を巡る苛立ちを綴った文章がけっこうある。まあ、ご苦労さまとしかいえないけど。

1999/8/23

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