間違いだらけの少年H

銃後生活史の研究と手引き

山中恒、山中典子 / 辺境社 / 99/05/01

★★★★★

情熱のこもった力作

 妹尾河童の『少年H』という本(私は読んでいない)が小学館児童出版文化賞と野間児童文芸賞を受賞しそこなったのは、山中恒がケチをつけたのが理由とされている。その山中恒が、『少年H』に見た問題を解説した本。私は『少年H』を読んでいないので別にどうでもいいのだが(また、本書に引用されている文章を見る限り、読む必要もない本だと思えるが)、山中恒の側が圧倒的に正しい。

 山中が指摘する『少年H』の誤りにはいろんな要素があるけれども、大雑把に要約すると、『少年H』は年鑑から適当な項目を拾い集めて再構成したフィクションである、ということになる。『少年H』はもともとフィクションなので別にいいわけだけど、著者の妹尾河童はこの本を自分の記憶だけを元に書いた本だとあちこちで主張しているらしいので、山中の非難は正当である。しかし一番悪いのは、これが歴史の偽造であるということで、同時代を生きた山中が怒るのも無理はない。ホロコーストの生き残りがホロコースト修正主義者に対して感じる怒りと同じものだろう。

 たった数十年前のことなのに、これほどひどい偽造がまかり通ってしまうということ(『少年H』はたくさん売れたらしい)に改めて驚くと同時に、山中がやっているようなまっとうな歴史研究の大切さを痛切に感じた。

 怒りのあまりに筆が滑ったと思われる部分があちこちに見られるが、この本の重要さから比べれば些細な傷である。また、「銃後生活史の研究と手引き」という副題が付けられていることからわかるように、この本は『少年H』の批判にとどまらず、批判のベースとなる資料だけでなく、それをはるかに超えた範囲の資料を大量に引用している。筆が滑った部分についても、それをバックアップする資料が掲載されているので、純粋な「銃後生活史の研究」の本として面白く読めるのである。

 素晴らしい本だが、辺境社発行、勁草書房発売で5600円。何冊売れるのだろうか。

1999/8/23

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