生と死の分岐点

山の遭難に学ぶ安全と危険

Sicherheit und Risiko in Fels und Eis

ピット・シューベルト編 / 山と渓谷社 / 97/02/01

★★★★★

クールな、ドイツ人的な、百科事典的名著

 副題は「山の遭難に学ぶ安全と危険」。著者はドイツ山岳会の安全委員会の創設以来の委員長。登山の際に起こった事故を調査することによって得られた教訓を体系的に述べた本。

 私は登山はしないし、またする積もりもないのだけれども、この本はきわめて面白く読んだ。5段階評価で最高の5点をつけているのは、それほどまでに、この本が凄かったということを意味している。本に出てくる器具は、名前もきいたことがないものが多いし、実際に見たことがあるものは1つもないといっていいというのに、たとえば「確保支点のハーケンにかかる負荷は中間支点のハーケンにかかる負荷よりも小さい」などという記述を楽しく読めるのである。翻訳が非常にいいことも手伝っているのだと思う。

 訳者あとがきでは次のように書かれている。「いわゆるドイツ的な秩序というのは、その現れ方いかんによっては救いようもなく俗悪で、はなはだしく滑稽にもなるのだが、本書はドイツ的秩序の良い面が存分に発揮された好例といってよい」。大賛成である。著者は安全委員会の委員長という立場から、大量の事故例を収集できる立場にあったようだが、その調査にかける熱意がただものではない。ドイツに限らず、北欧などで、自動車事故の研究と、その結果の車のデザインへのフィードバックが進歩しているのは、これと同じ現象なんだろうなと思った。

 この本があまりに凄かったので、日本人が書いた山岳事故の本などをいくつか読んだが、情緒に流れがちで気持ちが悪かった。

1998/4/10

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