Silent Witness

リチャード・ノース・パタースン / Ballantine Books / 97/01/01

★★★★★

リーガル・サスペンスの最高傑作

 リチャード・ノース・パタースンが1997年に書いた本。『サイレント・スクリーン』の弁護士、アントニー・ロードが主人公となるリーガル・サスペンスである。本書の舞台は『サイレント・スクリーン』の後の時期に設定されているが、『サイレント・スクリーン』の前の少年期についても、例によって、長い長いエピソードが入っている。『サイレント・スクリーン』の12年後に書かれた続篇ということを考えると、いろいろと興味深い。

 『サイレント・スクリーン』のアントニー・ロードはやけに陰気だったが、本書で描かれている彼の少年期の体験を読むと、ああいう陰気な弁護士になるのも仕方がないなと思う。それほど、彼の少年期の体験は悲惨である。彼は、田舎町のハイスクールの学生だったときに、デート相手の少女が殺されるという体験をしている。死体を発見して近寄ったところを少女の家族に目撃され、それ以降、町全体から殺人者として疎まれる。幸いなことに、十分な証拠がなく、また別に容疑者が発見されたため、起訴を免れ、ハーヴァード大学の奨学金を得て町から脱出する。

 『サイレント・スクリーン』の事件を経て、ロック歌手の(いまでは役者となった)ステイシー・タラントと結婚生活を送っていたアントニー・ロードは、当時の親友がハイスクールの女学生の殺人犯としての嫌疑を受けたという知らせを受けて、親友の弁護のために28年ぶりにその田舎町に戻る。そしてその弁護活動を通して、もっと悲惨な目に遭う。

 パタースンの『罪の段階』は、非常に素晴らしいリーガル・サスペンスだったが、この"Silent Witness"はあれと同じほど素晴らしい。どちらも刑事弁護士がぶち当たる道徳的なジレンマをテーマとしており、そのジレンマの舞台設定が非常に巧妙なのである。どちらも「身内の弁護をしてはいけない」という教訓で終わってしまいかねないという問題はあるのだが(実のところ、これはけっこう致命的な問題ではあるのだが)、それにしてもこの"Silent Witness"でトニー・ロードが弁護士としてとらざるをえなくなる行動は背筋がぞっとするほど冷酷であり、それだけに彼が陥るジレンマも恐ろしい。

 この本のもう一つの魅力は、トニー・ロードの少年期のエピソードである。彼と、後に殺人の嫌疑を受ける親友、Sam Robb、そしてその周囲の人々の描写は、それだけで一つの青春小説になりそうなほどに瑞々しく感動的だった。このエピソードの登場人物たちの、後にメイン・ストーリーに戻ったときの絡み方も非常に強力で(この強力さもパタースンの特徴)、シニカルで、感動的である。

 例によって、物語の途中でネタが少しばれてしまうという問題があるけれども、そんなことを問題と感じさせない強力なストーリー・テリングと圧倒的に説得力のあるセンチメンタリズム。個人的には、トニーに心惹かれながら、町に残る決断をしてSamと結婚したSueのエピソードに涙を流しました。われながら感傷的にすぎるけど、いやほんと、強力です。

1999/8/23

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