No Safe Place

リチャード・ノース・パタースン / Ballantine Books / 98/01/01

★★★★★

強力な政治小説

 リチャード・ノース・パタースンが1998年に書いた本。『サイレント・スクリーン』で暗殺されたジェイムズ・キルキャノン上院議員の弟、Kerry Kilcannonは、14年後にやはり上院議員として民主党の大統領指名候補を巡ってキャンペーンを行っている。そのキャンペーンの最後の6日間が舞台となるのだが、やはり例によって過去のエピソードが大量に挿入される。

 ジェイムズ・キルキャノンは『サイレント・スクリーン』では比較的早い段階で物語から消えたが、どこかしら神秘的な、というか不可解な印象を与えていた。『サイレント・スクリーン』単独で見れば単なる書き込み不足なんだが、この"No Safe Place"ではジェイムズ・キルキャノンという人物が弟Kerryの立場から描かれる。やっぱり不可解である(笑)。というよりも、その不可解さが彼の真髄であったということになっていて、13年前に書いた本の後始末としてなんとも狡猾だ。ちなみにアントニー・ロードとステイシー・タラントもちょっとだけ登場する。

 例によってKerry Kilcannonの少年期からじっくりと描かれる。彼は暴力的な父親の下で育ち、優秀な兄に対するコンプレックスに悩むいくぶん問題のある少年だったが、地元の有力者に見いだされ、彼をメンターとしてなんとかまっとうに育っていく。法律家になり、検察官としての職を得て、家庭内暴力を専門とするようになるが(ちなみにこれは上司と衝突した結果の左遷だったのだが)、兄が暗殺された時点で、彼の代わりとして上院議員になることを決意する。

 キャンペーンの6日間では、昔恋人だったジャーナリストのLara Costelloとのスキャンダル、Kerryの暗殺を企てる異常者、政敵である現職副大統領との戦いなどの危機が襲う。

 この本には、これまでの本とは違って、リーガル・サスペンスの要素がまったくない(Kerryが検察官だったときの活動の描写はあるが)。つまり、パタースンはこの本であえて新しいことをやろうとしている。ジャーナリストの倫理、政治家としての倫理、政治と権力というものの意味などの大きなテーマに真っ向から取り組んでいるのだが、優れているのはこれらの事柄を客観的な立場から扱うのではなく、それぞれの当事者(ジャーナリストと政治家)が抱える切実な問題として扱っているところにある。特に政治と権力については最近読んだ『ダーティー・ハンズ』に匹敵する(凌駕している?)深い洞察があって素晴らしい。ただまあ、やっぱり彼のリーガル・サスペンスの書き手としての優秀さと比べると、こうした部分は少し弱いという感じがする。

 でも相変わらずストーリーテリングが素晴らしい。というよりも、他の仕掛けの部分が弱いだけに、ストーリー・テリングの強力さがはっきりと見えると言えるのかもしれない。検察官の時代に暴力的な父親から「救出」した子供、John Mussoのエピソードと、恋人のLara Costelloのエピソードには涙しました。特にLara Costelloとの関係は一筋縄ではないかない(ネタばれになるので伏せますが、最後の方で驚くべき行動に出る。まああんまりメジャーな行動ではないけど、さりげないだけに驚愕した)。

 最後に、謝辞になかなか興味深いことが書かれている。元大統領のジョージ・ブッシュが『罪の段階』を読んでパタースンにkind noteを送ったらしい。ちょっとブッシュに対する見方を変えかねないエピソードではある。なお、次の本では、たぶんKerryが大統領になっているということを示唆する記述がある。ブッシュとそのホワイトハウス時代のpolitical directorのRon Kaufmanからいろいろと助言を受けたらしい。

1999/8/24

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