分数ができない大学生

21世紀の日本が危ない

岡部恒治、戸瀬信之、西村和雄編 / 東洋経済新報社 / 99/06/17

★★★

日本数学会のワーキング・グループの成果

 編者たちは日本数学会の「大学数学基礎教育ワーキング・グループ」や「数学教育を考える会」のメンバーで、本書はこうした活動から生まれたものらしい。いろんなバックグラウンドの人たちが文章を寄せているが、全体としてのメッセージは、大学までの数学教育にもっと力を入れろ、ということだ。

 もちろん他の分野を教えている人は、その分野の教育にもっと力を入れろと主張するわけだ。全体として文部省の「ゆとりの教育」の方針に対する反論がこのところ多いようである。文部省の側としては「せっかく世論に迎合してゆとりを推進してきたのに、そう言われても困っちゃうな」という感じだろうと推測する。

 この問題は2つの側面を持っている。1つは、教育をもっと強化するべきかどうか、もう1つは、その中でも特に数学を強化するべきかどうか、である。数学の人は、数学は基本的な教科なんだから特に強化するべきだと主張するが、他の分野の人にもそれぞれ言い分があるだろう。ここらへん、うまく擦り合わせをしないと、教育全般が過度に強化されるという反動が生じかねない。

 なお、大学教員が学力低下を論じるときによく見られるのが、自らが教育システムの一つの環であるということを忘れたような態度である。彼らの頭のなかでは、文部省のポリシーは自分たちのコントロールの範囲外である、ということが強くあるのかもしれないけれども、部外者に言わせれば、同じ穴の狢なのだ。この本にも、そういう歯がゆさを感じる文章がいくつか収録されている。実際、多くの問題は、むしろ大学の側が新しい教育環境に適応しきれていないために生じているように見えるのだ。たとえば、第7章を書いている、講義に遅刻することを自慢するような無能な教員をクビにできないこととか。大学でのカリキュラムを十分に再編成できていないこととか(これは当たり前のことだと思うんだけど、カリキュラムは学生に合わせて作るものだ。これまで使ってきたカリキュラムにいまの学生が追いついてこないといって学生(および大学前の教育)の側に責任を負わせる議論は、率直にいって、バカにしか見えない。しかし悲しいことながら、こういう論調はほんとに多い)。

1999/8/29

 『小数ができない大学生』という続篇が出た。こちらは数学だけでなく、学力低下一般を扱っている。

2000/06/09

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ