肥満とダイエットの遺伝学

遺伝子が決める食欲と体重

蒲原聖可 / 朝日新聞社 / 99/08/25

★★★★★

肥満遺伝子に関する啓蒙書

 ロックフェラー大学で肥満症に関する研究を行った人による、摂食、肥満、体重などに関する啓蒙書。肥満遺伝子に限らず、広い範囲の研究を紹介している。

 以下、体重のセットポイント説に関する説明(78ページより)

(体重の)セットポイント説によると、エネルギーの貯蔵状況は、中枢神経系(脳)によって感知されているという。そして、貯蔵されているエネルギーの増減に応じて、中枢神経系が、摂取カロリーと消費エネルギーのバランスをコントロールする。つまり、脂肪の量は、中枢(脳)によって感知され、増減されている。たとえば、熱帯魚の水槽に備えられたサーモスタットを考えよう。設定された温度以下に水温が下がれば、水を温めるためにヒーターが動く。これと同じように、動物の体重も、セットされた体重以下に減少したときには、摂食行動やエネルギー代謝が調節され、決められた体重に戻る。また、体重が規定された値以上になっても、同様のメカニズムが作用し、もとの体重に戻る。これが体重のセットポイント説だ。
それでは、われわれの体は、どのようにして、体重をセットポイントに合わせているのだろうか……(中略)。現在、医学界においてひろく受け入れられている理論は、リポスターシス(「脂肪定常説」あるいは「脂肪平衡」)として知られている。つまり、われわれの体は、脂肪の量を増減させることで、体重をセットポイントの値になるように調節しているというのだ。

 要するに、セットポイントが90 kgの人が無理して体重を60 kgに落としたとしても、体は摂取カロリーを増やす、または代謝を落とすことによって、体重を90 kgに戻そうとする。このセットポイントは、同じ人でも年をとるごとに高くなる(年をとると太る)が、短期的に見れば一定である。また、このセットポイントの値は、かなりの部分、遺伝的に決定されている。

 ロックフェラー大学のフリードマンらが同定した肥満遺伝子は、肥満を示す系統として知られていたob/obマウスのもので、これが生産するタンパクはレプチン(leptin)と名づけられた。ヒトのレプチン血中度は体脂肪の割合と正に相関する。つまり、レプチンは脂肪から脳への(体内の脂肪の量に関する)信号を伝えるホルモンである。このホルモンの受容体は、おもに脳の視床下部に存在することがわかっている。

 ヒトの肥満のほとんど(90%以上)は、レプチンが本来あるべき量だけ出ているのに肥満しているという状態である。つまり、レプチンの受容の側に問題がある。残りの10%以下は、レプチンの産生の方に問題がある。

 全体として非常に良く書かれている啓蒙書。カバーしている範囲が広いので、書きようによっては何がなんだかわからない内容になった可能性も十分に考えられるのだ。

 なお、この著者の名前、何も知らなければ「アニメの主人公の名前?」と思ったかもしれない。

1999/9/2

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