私の「戦争論」

吉本隆明、田近伸和 / ぶんか社 / 99/09/30

★★★★★

素晴らしい本

 タイトルは小林よしのりの『戦争論』に由来しており、小林よしのりの主張に代表される最近のナショナリズムへの批判を行っている。これほど共感できる本はめったにない。実際、これ以外にわれわれが取るべき態度はないだろう、という感じ。老人の状況に関する発言の手本のようなもので、ここまで来て改めて吉本隆明の偉大さを感じたのだった。

 まあ細かいところで些細な疑問はあるにせよ(東京都のゴミ問題の話は、あれはいったい何だ? 戦後左翼の内輪もめの話もちょっとしつこい)、あらゆる問題にまっこうから立ち向かっていく強靭さを見るだけでも価値がある。そう、ここでのキーワードは「強靱」である。レトリックを排して、言いたいことをまっすぐに言うという態度。

 以下、名セリフをいくつか。商業ジャーナリズムと左翼ジャーナリズムについて述べたところ(139ページ)

たとえば、反体制のシンガーソングライターを気取っているやつで、郷ひろみに匹敵するような優れた歌手がいるかといえば、「そうはいないぞ」というのと同じです。郷ひろみは、デビューしたときは、"顔がよくてアイドルで"というだけで、「歌も下手だ」とバカにされていましたが、だんだん歌がうまくなっていった。それは、商業主義が歌の技術が向上するよう、鼓舞してくれたからです。

 最近では『買ってはいけない』を読んだが、他にも『歴史と真実』『歴史とは何か』『ナショナル・ヒストリーを超えて』なんかも同類だ。

 君が代に関して(254ページ)

それから「君が代」の歌詞は、その内容が科学的に見て疑わしいということもあります。「さざれいし(細石)」って小さな石でしょう。それが「いわお(巌)」になる、つまり大きな岩になる――そんなことが科学的にありえるんでしょうか? 僕は小さいころから、それが大いに疑問でした。

 なお、「聞き手」とある田近伸和という人が、この本の内容に大きく貢献していることが、吉本のまえがきと、田近のあとがきから見て取れる。この人はビジネス書のような著書しかないみたいだが、今後は要注目だ。実際この本は、いま吉本隆明に何を聞くべきなのかという問題意識と、吉本が語ったであろう言葉をうまく要約する技術のおかげで、最近のいくつかの吉本本人の著作よりも面白い内容になっているわけで、双方にとって実に幸せな出会いだったのだろう。これは実はインタビュー本なんだろう。

1999/9/2

 吉本の『僕なら言うぞ!』という本を読んでみたら、これがまた惨憺たる内容だった。この『私の「戦争論」』のどこまでを、吉本隆明という個人の属性に帰すことができるのか、改めて不安に思った。しかしそんなのはどうでもいいことではあるわけで。

1999/10/29

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