義憤の終焉

ビル・クリントンと踏みにじられたアメリカの理念

The Death of Outrage

ウィリアム・J・ベネット / 草思社 / 99/08/10

★★★★

面白い本だが、なぜ日本で出版する?

 著者のウィリアム・J・ベネットは、エンパワー・アメリカやヘリテージ財団などと関係のある共和党保守派の論客。クリントンが大統領にふさわしくないという主張を述べている本。クリントン大統領が連邦大陪審でモニカ・ルインスキーとの交際を認める前に書かれたものなので、アメリカで売れた本であるにせよ、なぜいまこの時期に日本で翻訳出版するのか疑問に感じた。帯に「これぞディベイトの教科書!」とあるのは、苦し紛れか。

 ウィリアム・J・ベネットは、このクリントン/ルインスキー事件がメディアで大きく取り上げられていた頃に、保守派の側の論客としてテレビ番組に良く出ていた。議員でも公務員でもない立場から、クリントンに対して最も攻撃的に発言していた人の一人だったと思う。このクリントン/ルインスキー事件ではクリントンを攻撃するのが一番楽な立場だったとは思うが、このベネットの発言はきわめて説得力があり、気になっていた。特にクリントンを支持するフェミニストを攻撃するときに活き活きとしていたのが印象に残る。

 しかし、時が経ってみれば、アメリカ上院議員は弾劾裁判で無罪評決を出し、国民の支持率も高いまま推移し、ベネットの立場は完全に負けたということになる。

 私は、特に弾劾裁判のTV中継には、「ほとんど」ずっと見ていたといっていいぐらい熱中したし、それ以前もそれ以降もかなりの時間をTV鑑賞に費やしたのだが、最初から最後まで少なくともTVの画面上では共和党側の批判者に大きな分があるように見えていた。したがって、アメリカ国民の支持率が高かったことと、民主党の議員がクリントン支持に回れたことに大きな驚きを覚えた。たとえビルがモニカとやったことが弾劾に当たらない行為だとしても、ポーラ・ジョーンズのセクシャル・ハラスメント裁判で偽証したことと、テレビの前でモニカのことを"this woman"と呼んで"sexual relations"があったことを否定したことは致命的だろうと思ったのだ。少なくともこの2つは、「右翼の陰謀」が入る余地がまったくない、国民に対する直接的な裏切りだからだ。

 1999年9月の時点で、すでにアメリカ、そして世界は、あのような混乱があったことをすっかり忘れているようだ。私はアメリカ国民でないのだからぜんぜん関係ないのだが、たとえばこの事件がイラクや北朝鮮に与える影響が心配で仕方がない。どう考えても反米感情に油を注ぐということになりそうで。

1999/9/8

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