ネアンデルタールと現代人

ヒトの500万年史

河合信和 / 文藝春秋 / 99/08/20

★★★★

最新の成果がわかりにくく解説されている

 自然人類学の歴史と最新の成果を紹介する本。この分野では、特に80年代に入ってから急速に事態が進展しているようで、このようなレビューは非常にありがたいのだが、同時にこの本は非常にわかりにくい。予備知識のない人で、これを読んで混乱しない人はまずいないと思う。用語をしっかりと定義していない。どれが定説なのかがわかりにくい。研究の歴史の時系列と、ヒトの歴史の時系列がごちゃごちゃになっている、などの原因がある。しかし、そもそもこの分野が混沌としているのかもしれない。

 いくつかのメモ。

 ヒトの直立二足歩行について。昔はサバンナに降りてきたときに直立歩行が適応的だったから生じたという説があったが、これはたぶん間違いらしい。樹の上に住んでいる化石類人猿の間で、直立二足歩行とは無関係な形質が生じ、それが直立二足歩行に転じた。以下、141ページより。

多くの人類学者の注目しているのは、チンパンジーが木登りの時に腰の筋肉を盛んに用いていることだ。筋肉の動きは、ヒトが直立二足歩行する時とよく似ているという。また木から木へと伝い歩くブラキエーションに際して、彼らは背骨を真っすぐ伸ばす。だから二足歩行の前適応は、確実に樹上で確立した、と思われる。

 中東や南欧で、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は1万年というかなりの長期にわたって共存していた。しかし、小説『ネアンデルタール』で示唆されたような、両者間の戦いによって、ネアンデルタール人が絶滅に追い込まれたという証拠はない。死亡率のわずかな違いで、ネアンデルタール人が自滅したとも十分に考えられる。しかしこれは希望的観測のような気もしないでもない。

 ヒトの祖先が類人猿(チンパンジー)の祖先から分岐したのは、500万年前と推測される(ミトコンドリアDNAの研究より)。250万年前にアフリカでヒト属(ホモ属)が誕生。その後、第一次アウト・オフ・アフリカが起こる(150万年前?)。アジアに行ったグループが、ジャワ原人や北京原人などのホモ・エレクトスになる。一方、アフリカに残ったグループの中からホモ・ハイデルベルゲンシスが出現(100万年前前後?)。これが氷河期のヨーロッパに定住したものがネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)へと進化した。20万年前にアフリカに残ったホモ・ハイデルベルゲンシスからホモ・サピエンスが出現。これが世界に広がったのを第二次アウト・オブ・アフリカと呼ぶ。ここで挙げた年代は、今後もどんどん変わっていく可能性あり。

 要するに、ホモ属は、何度かの失敗の後に、ようやくホモ・サピエンスで出アフリカに成功したわけである。

 しかしこの分野、今後もいろいろと定説が変わりそうで怖い。

1999/9/8

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