海を越えた縄文人

日本列島から太平洋ルートで南米まで1万6000キロの壮大な旅

テレビ東京編 / 祥伝社 / 99/09/20

★★★

テレビ本

 テレビ東京の開局35周年記念番組『ネシアの旅人』の企画本。仲代達矢がレポーターとなって、縄文人の足跡を太平洋の島々から南米まで追いかけるという番組らしい。テレビ本なので多くは期待できない。

 のだが、ここで追いかけられているアイデアはとても刺激的である。バヌアツのエファテ島で5000年前の縄文土器が発見され、これが5000年前にこの島に来たものだということはたぶん確定している。また、エクアドルの太平洋に面した漁村で、縄文土器に似た模様を持つ土器片が出土していることもわかっている。縄文人がここまで遠洋航海でたどりついたものだとしたら、その途中にある太平洋の島々にも足跡を残しているはずだ、というのはとうぜんの帰結だろう。そういうわけで、取材班はその途中にあるさまざまな島で、縄文人っぽいものを片っ端から探す。それらのどこまでが妥当なのか、どこからがこじつけなのかがまったくわからないため、全体としてまったく信用できない内容になっている。

 まあしかし、今後研究が進むにつれいろいろとわかってくるだろうと期待できる。

 縄文人とは直接の関係はないが、ミクロネシアの伝統的な航海術の話は想像力を刺激するものがあった。個々の島に行き着くための進路を歌にして覚えており、それをマスターしている人がまだ一回も行ったこともない遠くの島もあるらしい。

 なお、いくつか気になることがあった。それは、取材班も仲代達矢も、この縄文人という存在に大きな思い入れをしているところである。何かこの人たちは、冒険心に満ちた昔の日本人が東に向けて船を漕ぎ出したという文脈でこの現象を理解したがっているのだが、結局のところ、いまの段階では、これは縄文文化が広い範囲にわたって分布していたということに過ぎない(しかも仮説)。驚くべきことに、各地域の住人の遺伝的な関係についての言及がまったくないのでわからないのだが、縄文人が南から日本列島にやってきたというコースも考えられるし(これは縄文人のオリジンに関する仮説の1つであるはずだ)、縄文の文化が移民というよりは交易を通して広まったという可能性もあるわけだ。

 もう1つ、縄文人が日本人である彼らの先祖であるという位置づけをして先祖崇拝のようなことをやっているのだが、縄文人がどれほど日本人の先祖であるのかはよくわからないし、少なくとも仲代達矢が縄文人の末裔としてどれほどの権利を持っているかわからない。縄文人と弥生人の典型的な形質が、日本列島の現代人にある勾配を持って存在しているということはわかっているわけだから、どの現代日本人にも縄文人の血は少しは混じっていると言っていいと思うが、アイヌと沖縄住民ほどの権利はないことは確実だ。要するに、日本列島の住人である限り、朝鮮半島にわたって先祖崇拝をやる方がどちらかといったら適切である可能性が高い。

 ここのあたり、今後はますます難しくなっていく問題である。つまり、日本人としてのアイデンティティをどこにどのていど持つかという問題だ。たとえば、縄文人崇拝と天皇制は両立しないのである。

1999/9/8

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