21世紀の戦争

コンピュータが変える戦場と兵器

The Next World War: Computers are the Weapons and the Front Line is Everywhere

ジェイムズ・アダムズ / 日本経済新聞社 / 99/08/23

★★★★★

未来の戦争の形を探る力作

 著者はイギリス人(だと思う)ジャーナリストで、現在はUPI通信のCEOらしい。この本は、21世紀の戦争がどのような形になるのかを、20世紀末の(特にアメリカの)現状をベースに描いている力作。ジョージ・フリードマンらの『戦場の未来』が軍事史家のようなスタンスで書かれていたのに対し、こちらはジャーナリストらしい丹念な取材が魅力になっている。

 扱っている内容は幅広く、非殺傷性兵器(Non-Lethal Weapons: NLW)を含む通常兵器の進化や、広い意味でのインフォメーション・ウォーフェアをカバーしている。特に興味深かったのは、第20章「道義性とメガバイト」で扱われている、インフォメーション・ウォーフェアの「道義性」に関する考察だった。この種の問題はあまり真剣に論じられているのを見たことがないが、本書でも全体から見ればわずかなスペースしか割かれていないことからわかるように、実際に議論の対象になかなかなっていないようである。

 このパラグラフは個人的な考察。本書で論じられているようなメディア操作を含めた広い意味でのインフォメーション・ウォーフェアは、皮肉なことに、非戦闘員を戦闘員から分離して考えるという現代的な戦争の観念からの退行である。アメリカを初めとする先進諸国は、もはや(広い意味での)戦略爆撃を行うことができなくなっている。それに替わる手段として、相手国のインフラストラクチャに対する「非殺傷的」な攻撃を行うことが提案されるわけなのだが、これが道義的であると考えるのは欺瞞である。相手国の電力網やコンピュータ・システムを停止させるのは、戦略爆撃と本質的に同じだ。

 やはり同じ章で簡単に触れられていた、インフォメーション・ウォーフェアと核戦争のフレームワークの違いは興味深かった。核兵器配置をドライブする論理は、最終的には相互確証破壊(MAD)に行き着いていた。実際にMADをベースにした核均衡がうまく機能したといえるのかどうか、という点で異論がある人はいると思うのだが(『平和の代償』の項を参照)、少なくとも核の使用を決定する立場にある人たちが、MADという理論を知っているということ自体がいくらかの抑止力になっていたことは否定できないと思う。しかし、インフォメーション・ウォーフェアには、このような抑止力がなく、むしろ均衡を不安定化する要因がある。MADはある意味で、相手国の理性を信頼するということに根拠を置いていた。しかしインフォメーション・ウォーフェアは、相手国のインフラストラクチャに打撃を与えることで、判断力を失わせることを目的とするのである。

 その意味で、インフォメーション・ウォーフェアはまさしく冷戦後の産物といえるだろう。核を軸とした緊張がある国に対して、命令系統を混乱させることを目的とした攻撃を仕掛ける気になるだろうか? このことは逆に、次のような帰結も生み出す。アメリカはインフォメーション・ウォーフェアによって、冷戦型の核戦争を仕掛けてくるおそれがない国に対して先制攻撃を仕掛けることができる(インフォメーション・ウォーフェアが核攻撃よりも「人道的、道義的」であるという観念によって先制攻撃が容易になる)。それに対する報復として、アメリカは、局所的なテロリズムを怖れなくてはならない。

 なお、この本ではスパイ活動についての記述もあるが、特にクリントン政権下のアメリカへの中国の食い込みについての解説が興味深かった。アメリカの各種諜報機関が、自らの諜報能力を明るみに出したくないために、スパイ活動が行われていた証拠をなかなか外に出せないでいるという状況がなんとも面白い。スパイ小説にはまだまだ未来があると思った。

1999/9/27

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