茫然とする技術

宮沢章夫 / 筑摩書房 / 99/08/20

★★★

エッセイストの直面する困難

 著者は劇作家、エッセイスト。この本はエッセイ集。「脱力系エッセイ」とでも呼ぶべきもの。

 読み終えて改めて思うのは、web上に無償で公開されているものに、これよりも優れた面白いものがいっぱいあるということだった。本書もそれなりに悪くはないのだが、エッセイ系webサイトのランキングに入れたら5点満点の3点で「平凡」みたいな評がついてしまうかもしれない。

 『出版社と書店はいかにして消えていくか』の項で書いたようなこととも関係する、出版業界が今後直面する1つの問題に、情報のコストの低下(あるいは移転)がある。これは電子テキストの立場からアプローチしている人にとっては当然のことなのだが、出版業界の人の論では軽視されることが多いポイントなので、改めて書いておく。

 情報出版業界は、消費者(すなわち読者)の限りある需要を奪い合っている。World Wide Webの登場によって、情報入手のコストが低下した(実際には電話会社とISPに移転したのだが)おかげで、日本人全体の情報の需要は大幅に増大したと思われる。これを、従来の出版業界にとっての良い機会と捉えるか、強力な競争相手が出てきたおかげでもう勝てないと思うかは、心の持ちようだと思う。そして思うに、World Wide Web上で一番競争が激しい情報の1つは本書のようなエッセイであり、直接的な競争にさらされていない、紙の雑誌に掲載されるような従来のエッセイは、一番先にWorld Wide Webとの競争に負けるだろう。

1999/10/2

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