Dark Lady

Dark Lady

リチャード・ノース・パタースン / Knopf / 99/01/01

★★★★

野心的な失敗作と言うべきなのか、どうなのか、よくわからない

 リチャード・ノース・パタースンの1999年の新作。まだ出たばかりで、ペーパーバックにもなっていない。ちなみにamazon.comのユーザー・コメントでは全体的に評価が低い。

 1992年の『罪の段階』のあと、1995年に"Eyes of a Child""The Final Judgement"が出版され、1997年に"Silent Witness"が出版された。これらはいずれも『罪の段階』とほとんど同じ発想のリーガル・サスペンスだが、1998年の"No Safe Place"は、それまでとはうってかわって政治サスペンスとでも呼べそうな小説になっていた。今回の"Dark Lady"は、アメリカ中西部の架空の街Steeltonを舞台にした、政治寄りの検察/警察小説である。設定はどちらかといえば平凡なもので、似たような話はこれまでにいくらでも読んでいる気がするが、登場人物たちの抱える問題がいずれも一筋縄ではいかないという点にパタースンらしさが出ている。しかしこの試みが成功しているかどうかは難しいところだ。

 主人公はカウンティの女性検事補、Stella Marzである。カウンティの検事である黒人、Arthur Brightは次期の市長選に出馬しようとしている。彼が市長になると検事の職が空く(ちなみに検事は選挙で選ばれるが、検事補は検事が採用する職員である)。野心を持つStellaは、検事の席をめぐる選挙においてArthurの支持を取りつけたいと思っているが、主任検事補のCharles Sloanは黒人なので、ポーランド系であるStellaにはハンディキャップがある。しかしArthurの側も、市長選で白人層の票を得るためにStellaを利用することが可能なので、ぎりぎりになるまでCharlesとStellaのどちらを支持するのかを表明しないのが得策だと考えているらしい。まあ、こういう感じの面倒な人間関係が、主要登場人物全員の間に張り巡らされている小説で、その徹底ぶりはちょっと他に類を見ない。そういう中で、町の活性化をはかるための野球場の建設プロジェクト(このプロジェクトに対する個々人の距離の取り方もまちまちである)に絡んで殺人事件が発生し、人間関係がますますややこしくなる。

 事件の背後にある陰謀とその進展具合と結末はありきたりなものなのだが、パタースンはこの小説で、この手の小説では典型的なパターンとなっている枠組みに、面倒な人間関係を偏執狂的に張り巡らせるという実験を行っているような感じがする。それが成功しているかどうかは微妙なところで、本を読んでいる間はあまり意識に昇ってこないが、読み終わった後に個々人の思惑とか行動の意味とかを想像してみると、その整合性が実によく考えられているという印象を受けるといった具合なのだ。良く言えば世界観がきっちりと作られている、悪く言えばそれをStella Marzの準一人称描写で描き切れていないということになるのだろうか。

 前作の"No Safe Place"では、主人公が大統領指名選挙を戦う上院議員だったため、そこで生じる政治的ジレンマは非庶民的で抽象的になりがちだった。この"Dark Lady"は、政治のレベルを市やカウンティのレベルにまで引き下げることによって、より現実的なジレンマを作り出している。しかし、このように複雑な話を作るのに、検察/警察小説の形を借りるのは不適切だったかもしれない。

 なお、クリントン大統領の1999年夏休みの読書リストなるものにこの"Dark Lady"が入っているのを発見してしまった。ちなみに本書はジョージ・ブッシュ元大統領とそのアドバイザーだったロン・カウフマンに捧げられている。

1999/10/31

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