温かな夜

Cold Heart

リンダ・ラ・プラント / 早川書房 / 99/10/31

★★★★

なんとも不思議な感じだが、とりあえず支持

 ロレイン・ペイジ・シリーズの3作目。Prime Suspectシリーズの『顔のない少女』の項で、この3作目に対して不安を抱いていることを書いたのだが、それを見事に裏切る、しかし今度は別の意味で不可解な本になっていた。

 ところで原題が"Cold Heart"なのに『温かな夜』という日本語タイトルをつけるのは、世の中をバカにしているのだろうか。1作目の"Cold Shoulders"が『凍てついた夜』、2作目の"Cold Blood"が『渇いた夜』であることからわかるように、"Cold"シリーズを無理矢理「夜」シリーズにしてしまったところに問題の根源があるのだが、それにしても「温かな」はあまりにもラディカルである。この投げやりな姿勢は翻訳にも現れていて、たしかにぶっきらぼうな翻訳がラ・プラントの文章に似合っていることは認めるのだが、細かいところでの手抜き(に見えるもの)が目立つ。「翻訳コンテスト」とかに出品したら1次予選で落選するのではないか(逆にこれを当選させるコンテストがあったら、そのコンテストは偉いと思うが)。

 『凍てついた夜』が、ハードボイルド小説、アル中小説、女性を主人公にしたミステリ小説といったいくつかのジャンルで先進的な作品だったことは間違いないとして、その続篇の『渇いた夜』はそういった先進性がすべて失われた平凡な小説に思えた。このあたりが、ミッチェル・スミスやフィリップ・カーなどの足跡を思い起こさせて怖かったのだが、この3作目は平凡を装う奇怪な作品だった。細かいストーリーには触れないが、メイン・ストーリーがレッド・ヘリングであるというテクニックの効果をただ1点に集中させる、きわめてテクニカルな指向を持った小説なのである。これまでのリンダ・ラ・プラントの小説には、こういう構成上のテクニックを忌避しているという印象があったので、これにはかなり驚いた。

 しかし、(われわれがすでに辟易している)「回復の物語」を、あまりダサくならないように語るという目的の達成手段としては、この手法はきわめて有効だったと思う。この『温かな夜』を単独で読んだらとんでもない駄作に見えるかもしれないが、ロレイン・ペイジ・シリーズの3作目としてとりあえず支持したい。

1999/10/31

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