米中衝突

Power Curve

リチャード・ハーマン・ジュニア / 新潮社 / 99/11/01

★★★

まあ平均的な軍事スリラー

 『第45航空団』、『ウォーロード作戦』、『最終作戦トリニティ』などのリチャード・ハーマンJrの新作。物事をよくわかっていない女性が大統領になったため、中国が日本に侵略してもアメリカが適切な対応を取れなかったという話。著者は元空軍パイロットで、軍人出身の軍事スリラー作家に典型的なスタンス(清廉潔白な軍を政治がスポイルする)をとる。まあその中では標準的だが、ホワイトハウス内での政治を扱う部分がちょっとプリミティブ。一方、嘉手納空軍基地の司令官が直面する問題群にはさすがにリアリティがある。

 一日本人としてこの本を読んで特に注意を惹かれるのは、登場人物の誰もが、日米安保条約にも日米同盟にもほとんど注意を払っていないことだ。特に大統領はそんなものが存在していることを知らない、という設定になっているかもしれない。嘉手納空軍基地の司令官についていえば、中国の艦隊が日本の海域に入ってきて自衛隊と交戦し、久米島を占領するという状況になっても、沖縄にいるアメリカ人を横田基地に空輸するという問題だけに取り組むのである。

 アメリカ製の軍事スリラーはそこそこ読んできたつもりだが、中国(ちなみに台湾は占領済み)が日本と直接に戦争を行うという話は非常に珍しい。アメリカは国内政治に縛られて有効な手だてをうつことができず、中国が前述のように久米島を占領してもまだ様子見で、沖縄にいるアメリカ人を載せた飛行機が事故で落ちたときになって初めて輿論が動き(別に中国が撃墜したわけでもなんでもない)、中国でアメリカ人が人質になったことが決定的なきっかけになって、ようやく核兵器を動員して中国を退かせる。日本人読者にとっては厄介なことに、こういうアメリカ側の対応の遅れの原因は、一つは平和主義のアメリカ大統領にあり、一つは国内政治の権力バランスにある。その中で軍部はつねに早めの対応を主張し、日本軍と日本人のことを味方として扱う「善玉」なのだ。

 アメリカ人の一般読者は、こういうストーリーを読んでもそれほど違和感を感じないのかもしれない。日本人も、中国が韓国/ベトナム/台湾に攻撃を仕掛けるというような話であればさほど違和感を感じないかもしれない(相手がイスラム国家だったらなおさら)。うーむ、娯楽本だとはいえ、なかなか居心地の悪い本だった。

1999/11/7

TRCの該当ページへ

TRCの該当ページへ

amazon.comの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ