日本書紀の謎を解く

述作者は誰か

森博達 / 中央公論社 / 99/10/25

★★★★

日本書紀の成立の過程をテキスト研究によって明らかにする

 日本書紀の成立の過程をテキスト研究によって明らかにする。基本的にテキストの内容に踏み込まず、テキストの外形的な特徴をもとに論を進めているまっとうな文献学。

 第1章「書紀研究論」では、これまでの書紀研究の概略が説明される。すでにいろいろな手がかりから、書紀を構成する30巻が2つの系統に分けられることがわかっていることが述べられる。

 第2章「書紀音韻論」では、この2つの系統が(著者オリジナルの)音韻論の立場から裏づけられることが論じられる。これは逆に、音韻論から2つの系統の範囲がはっきりと定義できるということで、著者はこれにα群とβ群という名前を付けている。α群は中国音によって書かれたらしいのに対し、β群には倭音に基づく仮名が含まれている。

 第3章「書紀文章論」では、書紀の文章の中の「倭習」(和臭とも書かれる)の分布をもとに、α群が漢文を身につけている人物によって書かれたものであるのに対し、β群が漢文をよく知らない人物によって書かれたものであることが論じられる。

 第4章「書紀編修論」では、これらの証拠に加えて、内容に踏み込んで、α群が中国から渡来した中国人一世、要するに中国語のネイティブ・スピーカーによって書かれたものであり、β群が正格漢文よりも仏教漢文を学んだ日本人であるという仮説が述べられ、各群の述作者が特定される。

 という風にまとめると、非常に論理的にしっかりした構成を持つ研究/本であるという印象があるのだが、実際には読みにくい。最近では『古墳とヤマト政権』のときにも感じたのだが、日本の歴史研究者は往々にして読みにくい文章を書く。現代日本語が西洋語(実際には英語)からの翻訳言語であるということなのだが、ここではあえて(漢文からの翻訳言語であると思われる)歴史研究者たちが書く文は悪文であると主張したい。

 この仮説の業界内での位置づけがわからないので不安があるけれども、明快でスリリングな論だった。

1999/11/12

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