出版現実論

藤脇邦夫 / 太田出版 / 97/11/30

★★★

出版界の「編集」重視の風潮に対する「営業」からの異論

 3年前の『出版幻想論』の続篇。

 『出版社と書店はいかにして消えていくか』を読んでから関連情報を探していたが、その過程で知った本。出版界の「編集」重視の風潮に対する「営業」からの異論。著者は中小出版社(白夜書房か?)の営業の人。全体的に、世の中で注目を浴びている「編集者」に対する嫉妬にドライブされており、本音は「出版社にまともなマーケティング部門を作れ」ということに集約されるのだが、本人の内にある編集者指向性というか出版をめぐる幻想が論旨を乱しているという感じの本。業界人の業界内幕話を批判しておきながら、本書そのものが業界内幕話であること、書評の無効性を論じておきながら、巻末にいくつもの書評が載っていることなどの自家撞着が、立脚点の危うさを物語っている。

 「編集」と「営業」の対立関係はあってとうぜんのものだ。ハリウッド映画のプロデューサーとディレクターは違うことを言うはずであり、その緊張のなかからときに良い映画ができる(もちろん悪い映画もできる)。アメリカのエンタテインメント小説はこれに近い状況になっているが、要するに商業映画や商業小説はこの過程を経るから興味深く、スリリングなのだ。

 著者が指摘するように、出版業界でもちゃんとマーケティングを行っている分野ではヒット作が出ている。これは著者が啓蒙しようとしているメカニズムが現実に動いていることの証拠であって、(著者の立場から見れば)望ましいことだ。だから真の問題は、低予算のインディー映画に相当するような本の出版活動に、どのような落とし所を設定するべきか、またそうするにはどうすればいいのかというところにある。そして、そのような本の出版活動を行う人たちに、本書で再三主張されているような、ラディカルな形でのマーケティングを勧めても無意味だ。競争が進めば進むほど、勝敗は資本の大小で決まるような気がするし。

 『出版社と書店はいかにして消えていくか』の項で書いたことと重複するが、弱小出版社の出版物が、マーケティングの産物としての出版物に「食われている」ように見えるのは錯覚で、この錯覚は両者が書店という同じ場所に置かれ、同じ仕組みで流通していることから生じている。弱小出版社の出版物は、他のメディアとの競争と、流通機構の歪みと、同じジャンル内での過当競争の結果として衰弱しているのであり、逆にそうであるだけに、著者が述べる方向に過剰に向かわなくても再生の望みがあるのだと思っている。それに、著者が賛美するような「マーケティング」は最初の第一歩であり、これがもっと進歩していけば、いまの「良書」と言われているようなカテゴリがペイするニッチは十分に掘り起こされるだろう。

1999/11/14

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