〈在日〉という生き方

差異と平等のジレンマ

朴一 / 講談社 / 99/11/10

★★★★

在日コリアン向けに書かれたといってもよさそうな本

 著者の朴一(パク・イル)は朝鮮半島の政治と経済を専攻する学者。本書の第一部は在日コリアンを巡る社会問題とそれに関する論争の歴史の概要であり、第二部は有名な在日コリアンの人物像を紹介するというもの。本書の興味深い点は、日本人一般よりも在日コリアンを想定読者として書かれているような雰囲気があることだ。その手の出版物はきっと少なくはないのだろうけれども、講談社選書メチエのようなメインストリームの本としては珍しいかもしれない。

 第一部では、各種の問題に関して、もっぱら在日コリアンの間でどのような議論があったかを公平な立場から紹介している。在日コリアン以外の人々に対する問題提起というよくある形よりはむしろ、在日コリアンの問題意識の形成を手助けするための文章という感じだ。そのためにも、各種の議論の紹介は中立的でなくてはならなかったのだろう。もちろん在日コリアンでない読者にとっても大いに役立つ内容である。

 第二部では、力道山、徐甲虎(紡績会社)、辛格浩(ロッテ)、李煕健(銀行)、新井将敬、孫正義の人物伝で、特に力道山については既存のさまざまな説のレビューを行っていて詳しい。どの人物についての記述にも、トピックとしての微妙さが窺えるような部分があってなんとなく物足りないのだが、全般的に、在日コリアンの若者に勇気を与えるような書き方になっている。

 ここからは完全な推測だが、本書がこのようなアプローチをとっていることの背後には、第一部でも取り上げられている在日コリアンの若者の民族的アイデンティティの希薄化という問題意識(というか危機感)があるのではないかと思う。そもそもそのようなアイデンティティを持つべきかという議論もあるけれども、その議論とは関係ないところで、現実問題としてコリアンの日本社会への同化は進んでいるようだ。とはいいながら、22ページに掲載されているアンケート結果を見ると、民族名の使用比率とかハングルの理解度などはむしろ若者の間で高くなっていて一筋縄ではいかない。26ページ以降にはこの結果のいくつかの理解の仕方が紹介されているのだが、もっと前向きに考えてもいいんではなかろうか。「若者の間でコリアンであることがかっこよくなっている」というようなことを、たとえほんとうはそうは言い切れないような事情があったとしても、言う、という戦略は十分に可能だと思う。本書でも述べられている、同化の終点まで行き着いた上での(良い意味での)差別化としての外国オリジンということで。実際、そういう時代はすぐそこに来ている感じがするし。

1999/11/19

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ