オペラ・チケットの値段

佐々木忠次 / 講談社 / 99/09/22

★★★★

情熱あふれるエッセイ

 著者は東京バレエ団の創設者・主宰者。オペラとバレエの招聘の仕事で活躍しており、海外の舞台の「引っ越し公演」という興行形態の創始者。タイトルの『オペラ・チケットの値段』は、日本でのオペラのチケットの値段が高いのは、国家の文化政策の悪さの現れであるという主張から来ている。プライベート・セクターで仕事をしてきた著者は、国がいろいろな形で文化事業に妨害をしかけてくることに怒っており、自らの半生記の部分を除くと、もっぱらその方面の文句が書かれているエッセイ集。

 ヨーロッパでオペラやバレエなどの舞台芸術のチケットが安いのは、劇場の運営に税金を投入しているから。これには常設のスタッフや専属のオーケストラなどが含まれているため、チケットを安くしても投資が回収できる。というよりも、安くすることが国の政策である。一方、日本にはそのように整備された劇場がないので(つまりハコだけ)、投資を回収するためにはチケットの金額を高くしなくてはならない。それに関連して著者は新国立劇場にものすごく怒っている。特に座席数が少ないわりに賃料が高いため、民間の団体が利用するのが難しくなっているらしい。

 著者はまた、モーリス・ベジャールの代理人として、「アダージェット」の振付の著作権侵害の件で日本のプロモーターに対して民事訴訟を起こした人物でもある。その侵害行為を行ったダンサー、ルジマートフを、新国立劇場が外国人ゲストの第一号としてオープニング・シリーズに招いたことにも著者は怒る。それだけでなく、新国立劇場は集客力のある演目を上演することで民間団体の客を奪い、海外のスターを高額なギャラで招聘することで民間団体を圧迫しているという。

 このような圧迫は海外でも起こっている。東京バレエ団は海外の劇場から招待されて海外公演を行っているが、世の中のほとんどの「海外公演」は、実は自らそのコストを負担して海外に出かけていっている、つまりハクをつけるためだけの遠征らしい。その中には巨額の金を払う国家事業もあるらしく、出演料を要求する営利団体である東京バレエ団は微妙な立場に立たされるようだ。

 私は東京バレエ団の興行は数えるほどしか見ていないが、正直いって、あまり好きになれなかった。劇団四季のミュージカルとか日本のサッカーと同じように、申し訳ないが「国際的格差」が歴然としているように思ったのである。しかし本書を読み終えたいま、東京バレエ団はパンクラスと同じように敬意を払うべき対象なのだという認識に到っている。おそらく著者にはパンクラスの船木と同じように毀誉褒貶があるんだろうけれども、魅力と実力があることは間違いない。パンクラスの前座試合がどれだけ退屈であっても、東京バレエ団の後ろで踊るダンサーたちがときに体操をやっているように見えても、それを見に行くのは正しい行為なのかもしれない。

1999/11/19

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