四千万人を殺したインフルエンザ

スペイン風邪の正体を追って

Catching Cold

ピート・デイヴィス / 文藝春秋 / 99/11/10

★★★

ちょっと焦点が絞れていないノンフィクション

 1997年に香港を襲ったH5型インフルエンザの説明を導入部として、インフルエンザ研究の現状を紹介し、1990年代の後半に行われた、当時犠牲者の埋葬死体や組織標本からスペイン風邪のウイルスを取り出す試みを描くノンフィクション。

 科学者の内幕ものの部分はまあ普通。インフルエンザが、脅威としてははるかに程度が小さいHIVなどのウイルスよりも軽視されていることに対する当事者たちの苛立ちなどが記されている。

 量としては少ないが、スペイン風邪の流行時の様子を新聞記事などをもとに描いている部分が面白い。スペイン風邪は、それが人類社会に与えたインパクトのわりには、われわれの記憶にほとんど残っていないように思うが、流行が終結してからわずか5年後にも、それが話題として古くなっていたということを示唆するエピソードが記されている。いまでも、AIDSや熱帯性の出血熱が集める関心と比べると、たしかにインフルエンザは話題としてあまり人気がないようだ。個々人のレベルで対策の講じようがなく、みんながランダムかつ平等に被害を受ける(ように感じられる)ことがその原因なんだろう。交通事故よりも対人地雷に強い関心が寄せられるのと似ている。

 ちなみに、「全世界」で1年あたりに地雷の被害を受ける民間人の数(死者数ではない)は、「アメリカと日本」の1年あたりに交通事故で死ぬ人の数を合わせた数とほぼ同じである(前者が3万人弱、後者が3万人強か)。

1999/11/29

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