臨界19時間の教訓

核事故緊急取材班 / 小学館 / 00/01/01

★★★

本として面白い試み

 1999年9月30日に起こった、東海村の核燃料加工施設での臨界事故に関するノンフィクション。この小学館文庫の本は、発行日は2000年1月1日になっているが、書店には少なくとも1999年12月7日の時点で並んでいた。つまり、これは従来ならば週刊誌別冊とかムックの形で出ていたような時事的なトピックを扱ったルポルタージュを、文庫の形として出すという新しい試みのようだ。『東芝クレーマー事件』もこれと同じタイプの本である。

 たしかに文庫になっているとかさばらなくて読みやすい。グラビア写真がふんだんに必要となるような事件には適さないが、今回のような事件にはうってつけの形態であり、面白い試みだと思う。いくつかの感想。第1に、どの時点で書かれたレポートなのかがわからない。内容からすると、本書は10月の半ば頃に脱稿しているように思われるのだが、この事件はいくつかの面で現在進行形なのだから、どこかに原稿の執筆終了日付を明記してほしかった。第2に、これは言ってもしかたがないことなのだが、この取材の結果が、web上で、新しい事実を反映してアップデートされないことがもったいない。

 ノンフィクションとしての本書は、さまざまな関係者にインタビューをして、事件の経過を立体的に浮かび上がらせるという標準的な作りで、こういう速報性を重視した本としては良い出来だと思う。しかし原子力行政一般に関する論評が非常に甘く、原子力産業の手先としか思えない。

 なお、この事故についての個人的な感想。私が一番驚いたのは、事故が起きたときに周辺住民の間でパニックが起こらなかったらしいこと。次に、屋内退避の勧告が解けたときに周辺住民が「安心」して表に出てきたらしいこと。そういうもんじゃないだろう。核ではなく生物学兵器の話だが、『細菌兵器に襲われた街』("The Crazies")とか『アウトブレイク』とか『沈黙の陰謀』などの映画を、またこれらに限らず災害パニック映画一般を見慣れている人であれば、大規模な災害が起こったら、手遅れにならないうちにどれだけその場所から離れられるかが生死を分けるということはわかっているはずだ。核事故ならばなおさらである。また、そういうときにお上は必ず判断ミスをするもので、パニックを防ごうとして安易に安全宣言をし、少数のヒーローたちが危地を脱する傍ら、無名の市民が何人も死んでいくものなのである。もちろんこれらは単なる映画なんだが、私はこれら諸々の映画は災害時の行動を市民に教える教育映画だと思っていた。教育効果が低いのか、東海村の住民は災害パニック映画を見ないのかどちらなのかは分からないが、いずれにせよこれはよくない。

 そういうわけで、東海村というおそらく日本で5本の指に入る危険地帯に住んでいる人たちの、核事故に対するあまりの感度の鈍さが印象に残った事件ではあった。以下、55ページより引用。JCOに隣接するゴルフ練習場の従業員の証言である。ただしこれは裏の取れていない噂。

これは、JCOに勤めている人の友人から聞いたんですけど、JCOのある幹部は、事故の一〇分後ぐらいには自宅に電話をし、「県内から出ろ」と連絡していたそうです。家族が大事なのはわかりますけど、目と鼻の先に住む私たちが何も知らされないで……という釈然としない思いがありますね。

1999/12/9

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