全証言東芝クレーマー事件

「謝罪させた男」「企業側」全証言

前屋毅 / 小学館 / 00/01/01

★★★

当事者双方に取材をしているとはいえ、スタンスがだめなノンフィクション

 1998年末から1999年にかけて起こった「東芝クレーマー事件」に関するノンフィクション。『臨界19時間の教訓』と同様に、速報性を重視した文庫版のルポルタージュである。事件の当事者であるAKKY氏と東芝の双方に取材をし、事実経過をたどりながら、両者の間にどのような形で誤解が生じ、ことがこじれたのかを解明している。読み終えた感想は、「なにバカなことやってるんだ」ということと、「ファックスとか留守番電話を使ったコミュニケーションはよくない。やっぱり電話などの同期的通信が必要だ」ということぐらいか。

 この件に関する個人的な感想。本書の著者と、解説を書いている堀部政男の両方が、この件に(かなり弱い形ではあるが)「インターネットの短所」みたいな意味を読み取っているんだが、これははっきり言って愚かだ。この事件は、間違いなく、立場の弱い消費者が、インターネットという道具を得て、東芝という大企業と一戦を交えることができたという喜ばしい出来事である。メジャーなメディアからAKKY氏に対する攻撃が行われたという今回の教訓を踏まえて、告発者の匿名性を守る消費者保護団体がインターネット上に登場することが期待される。というような感じの結論に行くのが当然のあり方だろう。

 AKKY氏のような人にクレーマーなるラベルを貼って貶めるという一般的な風潮は、「グローバル・スタンダード」に反している。最近読んだこれに関連する本には『日出づる国の「奴隷野球」』『アメリカ司法戦略』があるが、この2冊の著者が嘆く日本の特殊性が、まさにこの一般的な風潮に現れている。もちろん日本人としての誇りを持ってこの「グローバル・スタンダード」を拒否してもいいわけだが、そうした場合、インターネットというものはたしかに取り扱いが厄介で、本来ならば法律というツールを通して比較的クリーンに解決できたかもしれないトラブルが、インターネット上で泥沼化するという事態が頻繁に起こるようになるかもしれない。

 もちろん、私人間のトラブルや、爆弾の製造法がwebサイトに掲載されるというような話はまた別の問題である。

1999/12/9

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