「新約聖書」の誕生

加藤隆 / 講談社 / 99/08/10

★★★★★

新約聖書の成立までの歴史を解説した入門書

 『新約聖書はなぜギリシア語で書かれたか』と同じ著者。あちらは新約研究の基礎を述べた入門書だったが、こちらは新約聖書ができあがるまでの歴史を時系列的に解説した本である。あの本で「社会学的アプローチ」と呼んでいた態度を全面的に適用して書かれており、きわめてエキサイティングでわかりやすい良い本だった。

 特に印象に残ったのは、初期のエルサレム共同体における主流派とヘレニストの間の緊張関係を典型例とする、現在にまで連なる正統的な教会が、異端を抑圧しながら、その特徴を自ら採用して権威の存続をはかってきたというモチーフだった。

 初期キリスト教に関する一般向けの本では、エルサレム共同体の人気が低く、あまり詳しく触れられないことが多いように思う。これは当然のことで、エルサレム共同体はまだユダヤ教の一分派としての性格が強かったわけだし、新約聖書を、したがってキリスト教を論じたい人がマルコ福音書とQを重視するのは当たり前である。しかし本書では、新約聖書の成立までのエルサレム共同体を初めとする「主流派」についても中立的に詳しく論じているため、この時期の(こういう言葉を使っていいのかわからないが)正統と異端の関係の流れを整理した形で理解することができた。

 『新約聖書はなぜギリシア語で書かれたか』にも言及があるが、新約聖書に含まれているものを初めとするさまざまなキリスト教文書が成立し、それらが利用されるようになったこと自体がローマ的・ギリシア的な現象であるという指摘が興味深いのだが、このことに著者がどのような意味を見ているのか知りたいところだ。どうやらその議論は、著者のフランス語で書かれたルカ福音書に関する論文で展開されているようなのだが。

1999/12/24

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