マクドナルド化する社会

The McDonaldization of Society

ジョージ・リッツァ / 早稲田大学出版会 / 99/05/25

★★★

現象の整理はよくできているが、そこからの一歩が甘いか

 ファストフード・チェーンのマクドナルドを、効率化という社会現象のメタファーとして使っているポップ社会学。著者は、1980年代には、アメリカと日本の産業を比較し、アメリカのフォーディズム(Fordism)よりも日本的な経営の方が優れているというようなことを言っていた人らしい。本書は、社会の「マクドナルド化」している要素のカタログとしては広いジャンルをカバーしているが、そこからの踏み込みは甘く、「マクドナルド化(McDonaldization)」という言葉の響きの良さに依存しすぎている感がある。

 著者はこの現象に効率性、計算可能性、予測可能性、制御という要素を見て取り、これらが消費者だけでなく従業員や(チェーン店の)店長にも提供されているところに成功と普及の理由があるとしている。このような要素が、ファストフードだけに限らずあらゆる局面で支配的になっている状況を社会のマクドナルド化と呼び、このような傾向は脱人間的、非人格的なものだとして嘆いている。

 カタログの部分では、ハルバースタムの『フィフティーズ』で取り上げられていた現象とオーバーラップすることが多いことに改めて驚いた。フォーディズムはすでに生まれていたとしても、現代のアメリカに通じる大量生産・消費はやはり1950年代あたりで一気に加速したのだろう。

 本書で言う「社会のマクドナルド化」の重要な点は、大量生産に欠かせない効率化が、生産現場にとどまらず、消費者とのインターフェイスであるサービスの場にも波及したというところにある。著者はこれによって消費者の期待や行動が変化したという。つまり、大量生産の効率性、計算可能性、予測可能性、制御というような思考様式を、消費者の側も身につけるようになった。そのため、大量生産の現場の労働者が画一化するのと同じように、消費者も画一化した、というわけだ。しかし、著者が挙げる例を見ていくと、この議論はアメリカ文化に固有の特徴に根差している部分が強いのではないかという印象を受ける。たとえば、日本での「グルメ・ブーム」とか、日本では安いだけのコンピュータは売れず、むしろ高価でも付加価値の強いものに人気が集まるというような現象を考えると、本書の議論は果たして普遍的なものなのかどうかという疑問が生じる。もちろん、この「マクドナルド化」という言葉の定義そのものがあいまいなので、日本におけるそのような現象も広義の「マクドナルド化」に繰り入れられることになるのかもしれない(たとえば、「グルメ本」の格付けによるレストラン情報の効率化、とか)。まあそういう曖昧な言葉だからこそ、流行語となるポテンシャルも持っているんだろう。

 著者はマクドナルド化の弊害をいくつも挙げているが、その中にはマクドナルド化の本質とは関係のないものが少なくない。たとえば、マクドナルドがあまり健康に良くないとされる食べ物を売っていることは、必ずしもマクドナルド化の本質ではない。結局、これはアメリカ人が脂っこい食事を好んでいるということであり、ハンバーガー・チェーンはそのように好まれる食品を低コストで提供できているということなのだ。回転寿司はそれほど美味しくはないかもしれないが、ハンバーガーのような圧倒的に「ヘルシーでない」食品ではないということを想起すればよい。

 もちろん回転寿司はマクドナルド化の1例である。という結論に飛びつく前に、寿司そのものがファストフードであったということを思い出した方がよい。いやそれよりも前に、伝統的なレストランであっても、「効率性、計算可能性、予測可能性、制御」の諸要素は非常に重要であるということを思い起こすべきだ。効率が悪く、計算不可能で、予測不可能な、よくコントロールされていない料理を出す店はあまり人気を博さないだろう。ファストフードであるかどうか、チェーンであるかどうかを問わず、上記の諸要素はレストランの満たすべき条件である。それを言ったら家庭料理だってそうだ。毎回予測不可能な味になる家庭料理はあまり望ましくなく、そこから「おふくろの味」みたいな概念は出てこない。ん〜、どうやってオチをつければよいんだろう?

 まあ答えは簡単で、「効率性、計算可能性、予測可能性、制御」などの諸条件は、人間にとって生得的に好ましいものであるということだ。こういうのを極限まで押し進めると「脱人間的」な環境になり、クリエイティビティが損なわれると著者は言うけれども、著者本人が脱人間的でない職の例として出している大学教授がこういう本を書いているわけだからあんまり説得力はない。

2000/1/6

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