本とコンピュータを結ぶ

From Writing to Computers

ジュリアン・ウォーナー / 勁草書房 / 99/06/25

まことに扱いに困る本だ

 著者はイギリス人で、図書館学の人らしい。帯には「コンピュータの知をどう捉えるのか。書かれたものの共通性の上に、本とコンピュータの関連を見いだし、知の原理を統合する」とあり、監訳者あとがきからの引用として、次のような文章が載っている。

……これだけ多様で豊富な題材を、明確な分析軸を利用しながらとりまとめて、本とコンピュータを結ぶ一つの原理を提示したことは、総合学としての図書館・情報学の真骨頂を示したとも言えよう。その点で、個々の専門分野の問題が他領域でどのような広がりをもったものなのかを知る助けともなり、どの専門分野の方が読んでも得るものがあると思われる。

 しかし実際に読んでみると、これほど意味のない本も珍しいという感じだった。本(というかwritings)に関する文化人類学や民俗学のレビューに、無理矢理にくっつけたという感じの記号論と、初歩のオートマトン/チューリング・マシン理論の紹介。この人ほんとうにコンピュータ使えるんだろうかと思ってしまうぐらいに、実践から乖離している。また、その根拠はどこをどう読んでもまったく理解できないが、何かしらコンピュータが知とコンパチブルでないというようなことを言いたいらしい(どうやら、一時期もてはやされた人工知能研究の衰退をもって、人間の「知」の勝利宣言をしたいようだ)。

 あまりにどうしようもない本なので、関係のない小噺を1つ。『2001年宇宙の旅』に登場したHALのような人工知能は、どうやら2001年までには実現しなさそうだということがほぼ確定した。人工知能研究が流行っていた当時と比べて、人工知能の可能性あるいは形にかんするわれわれのパーセプションと期待は明らかに変わったと言えるだろう。ところでこの間、CNNのLarry King Liveの2000年記念番組に、物理学者のスティーブン・ホーキングがゲストとして出演していた。ご存じのように、ホーキングは重度の障碍者で、コンピュータによる合成音声を使って会話をする。ラリー・キングが質問をしてからホーキングが答えるまでにはそれ相応の時間がかかったと思うんだが、番組ではその間をカットしていた。その結果、ラリー・キングとスティーヴン・ホーキングの一問一答は、人間とHALの間の会話によく似たものになっていた。

 ラリー・キングの問いかけに対してホーキングがHALのような声を使って深遠な答えを述べるという図は、あの映画で描かれた未来を逆転させた構図である。コンピュータが人間に近くなるのではなく、人間がコンピュータに近寄ったというべきか。

2000/1/6

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