中国の漢字問題

蘇培成、尹文武庸 / 大修館書店 / 99/12/01

★★★★

中国の簡体字に関する議論

 2人目の著者の「文」と「武」は1つの文字。原題は『現代漢字規範化問題』(ただし簡体字バージョン)で、「中国語文現代化学会」という中華人民共和国の団体が発行した本の翻訳。現代の中国における漢字の規範化とは、簡体字の推進のこと。

 巻末の年表「現代中国における漢字簡略化の歩み」から、初期の項目を抜き出すと次のようになる。

一九四九・一〇 中華人民共和国成立。
一九五一・八  毛沢東、文字改革を指示。
一九五四・一二 国務院内に「中国文字改革委員会」成立。
一九五五・十二 『第一次異体字整理表』公布。異体字の整理と淘汰を行う。
一九五六・一  国務院『漢字簡化方案』を批准。これによって簡化字が中国大陸の正規の字形となる。

 識字率の低かった中国において、文字改革は共産主義革命の重要な要素の1つとして位置づけられてきた。その努力によって、簡体字が普及し、識字率は向上したが、現在にいたるまでいくつかの批判と問題がある。この本はもっぱら簡体字推進の立場から、そのような批判と問題に応えていくことを目的とした体制側の本である。複数の著者によるオムニバス形式だが、主張の重なっている部分が多いのでちょっと読むのが面倒。しかし現代中国の漢字事情を知るには好適な本だし、日本における国語改革に関する議論にも応用できそうな論点がいくつもあって非常に興味深い。文字コードと文字の問題を考える上でも貴重な資料になる。

 たとえば、漢字の簡略化を一方的に批判する議論に対し、漢字はその発祥の頃から簡略化されてきたのだという反論がある。簡略化によって元の漢字がわからなくなり、意味の類推ができなくなるという議論に対し、もともと繁体字のレベルでも類推は不可能になっているものが多いのだという反論がある。

 簡体字を推進している中国には、ハングルを推進している韓国とちょっと似たような形で、繁体字(あるいは漢字)がクールであるというような意識が一部で広がっているようだ。これには、繁体字(あるいは漢字)を使用している日本、台湾、香港などが揃って経済的先進国になっているという事情があるのだろう。それを憂う人がいるのは、日本にカタカナ語の多用を憂う人がいるのとそっくりでなんだか微笑ましい。「日本語の乱れ」を云々する人は、こういう本を読んで自らの姿勢を相対化するのがよいと思う。一方、逆の立場の人は、ガチガチの共産主義者の議論の潔さに打たれるかも。

2000/1/23

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