犯罪に向かう脳

人を犯罪にかきたてるもの

A Mind to Crime

アン・モア、デビッド・ジェセル / 原書房 / 1997/11/01

★★★

参考文献一覧がないので、判断に困る

 犯罪の生物学的な器質論というか唯物論的な決定論を扱った研究を多数紹介している。特に、人間の身体の化学的な状態と犯罪行動の相関を扱った研究をよく集めている。残念なことに参考文献一覧がないため、どの程度まじめにとってよいのか判断に困る。

 この手の発想は今後も勢力をのばしていくだろう。精神病に対する唯物論的なアプローチも含めて、この種の発想は人権を侵害するおそれがあるということで、比較的忌避される傾向がある。しかし、私の考えでは、この流れはいちど行き着くところまでいった方がよい。その上で新しいフロイトやユングの登場を待った方が、全体として害は少ないように思う。また、唯物論に決定的に蹂躪された荒れ地の上にできる精神分析や形而上学の方が、「文芸」としての価値は高いだろうと思う。

 場違いではあるが、ここに書いておこう。最近になって特に頻繁に起こるようになったように「見える」、少年による衝動的な暴力や殺人を語るときに、メディアでは、この種の唯物論的なアプローチでの扱いを避けて、「学校」や「家庭」などにその原因を求める傾向が強いように思われる。しかし、これは非常にまずいことだ。適切な治療によって救える人を救えなくなるかもしれないという危険はもちろんだが、「社会」や「家庭」に問題があるという言説が流通することで、かえって「学校」や「家庭」に問題を発見する少年が増えるというポジティブ・フィードバックが働く可能性があるからである。いやまあ、問題があると主張するのはよいが、それを犯罪の原因として臆測を述べたてるのはよくない。

1998/4/27

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