米中奔流

About Face: A History of America's Curious Relationship with China, from Nixon to Clinton

ジェームズ・マン / 共同通信社 / 99/12/10

★★★★★

アメリカの対中国外交の通史

 著者のジェームズ・マンは、ロサンゼルス・タイムズ紙の外交担当記者兼コラムニスト。本書はニクソン以降のアメリカの対中国外交政策の変遷を描いたノンフィクション。1998年に出版された本なので、1999年に表面化した中国人科学者によるスパイ疑惑は扱われていない。題材が面白いというのもあるのだが、緻密な調査と的確な視点に裏づけられた骨太のエキサイティングな本だった。

 ニクソンとキッシンジャーが中華人民共和国に対して歩み寄りの姿勢には、冷戦下におけるソ連への牽制という意味合いがあった。この2人が打ち立てた路線はそれ以降のホワイトハウスも継承するが、1989年の天安門事件以降は、人権問題と貿易問題がどのようにリンクされるかということが焦点となる。本書の著者の基本的な立場は、少なくともニクソン時代以来、中国は本質的にはまったく変わっていないが、アメリカの国内政治の激変のせいで米中関係が大きく揺れ動いているというところにある。

 『文明の衝突と21世紀の日本』のサミュエル・ハンチントンが唱える文明間での対立という世界像は、1990年代のアメリカにおける世論の大きな流れを代表している。要するに中国人は自分たちとは違うんだと思い切るということなんだが、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」よりも「文明の衝突」の方に説得力があるように見えてきたことのベースには、ソ連が崩壊した後に残った中国の存在が、アメリカ人に大きく見えてきたという事情があるに違いない。

 『誰がテポドン開発を許したか』は、クリントン大統領が「敵国」に利するような行動をとっていることを非難する本だったが、その「敵国」の中にはもちろん中国も入っている。しかし中国に関する限り、クリントンはある意味でニクソン以来の大統領たちがとってきた政策を大した修正もなく受け継いだということができる。違うのは、天安門事件以降、人権問題がアメリカ国内で大きく取り上げられるようになったということ(しかしこれに関してクリントンはかなり及び腰である)と、90年代のアメリカ経済の発展を反映して、対中国貿易の重要性が増し、それだけに批判者の目に対中国政策における経済的な配慮が大きく映るようになったということだろう。

 著者も「結び」に書いているが、ニクソン以降の中国とアメリカの関係を見ていると、明らかにアメリカが中国に手玉に取られているという印象がある。これに中国の政権の狡猾さを見ることもできるし、大統領制をとる民主主義国家アメリカの本質的な弱さを見てとることもできるだろう。いずれにせよ、今後中国とアメリカの関係が悪化するとしたら、それはアメリカの国内政治の不安定さが原因となって起こると思われ、いくぶん怖い気がしないでもない。おそらくハンチントンはこれに似た不安を心の中に抱いているのだろう。つまり、巨大な民主主義国家の不安定さが、次の国家間の大きな衝突の引き金になるということだ。

2000/1/23

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