汚れ役

「味の素総務部」裏ファイル

石神隆夫 / 太田出版 / 99/08/05

★★★★★

味の素の総務部社員の告発

 著者の石神隆夫は、味の素の総務部の社員(いまもそうなのかは不明。たぶんクビになっている?)。1997年3月に、総会屋に対する利益供与の疑いで元の上司とともに逮捕され、今も裁判で争っている。その豪華な生活と莫大な額の交際費が広く報道されて注目を集めた。彼の主張は「現金は渡したが、単なる飲食代である」というもの。

 本書は、元警察官だった著者が1983年に味の素に入社してからの活動を振り返りながら、80〜90年代の大企業の総務部と総会屋がどのような関係にあったのかを説明するという趣旨の本である。この人はある種のカリスマ的な存在だったようで、その魅力はこの本からも十分に窺うことができる。なお著者は警察官出身だが、事故にあって身体障害者となり、職業安定所を通して就職したという変わり種で、企業に無理矢理押し込まれたというタイプの元警察官の総務部員とはちょっとタイプが違うようだ。

 この本は、自己弁明と告発の書なので割り引いて受け止めなくてはならないけれども、著者のスタンスは、総会屋対策はあくまでもトップの意向を受けて行ってきたものであり、自分と上司の総務部長だけが逮捕されるのはおかしいというものだ。これを主張するために、味の素の役員や社員の実名をどんどん出して、さまざまな事件の経緯を細かく描いている。野村證券の内幕を暴露した『裏切り』とは違って、すでに被告人という後のない立場にまで追い詰められているので、遠慮のない反撃をしていて非常に面白い。

 なお、著者が総会屋対策をやっていた時期は、『グリコ・森永事件』で宮崎学が述べている企業と総会屋の関係の変質以降にあたっており、著者の記述だけを通して見ると意外にスケールが小さい。なんせ逮捕された理由が、総会屋8人に対して現金910万円を渡したというみみっちい話である。著者も、総会屋の活動はちまたで言われているほどの大がかりなものではないと述べている(この言葉をそのまま信じていいのかどうかはわからないが)。

 最後の方には、総務部なるものを解体して中立的なリスク管理部門を作れとか、警察がその気になれば総会屋なんか簡単に潰せる。警察は自らの権力を維持するために総会屋の存在を必要としているのである、というような前向きな提言とコメントがある。このあたりのニュアンスは『盗聴 ここまでやっている!!』と似ていて面白い。社会から弾き出されて、特に被告の身にまでなってしまうと、人間は前向きな提言をしたくなるものらしい。

2000/2/6

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