「日本有事」って何だ

「超カゲキ」vs「常識」問答

兵頭二十八 / PHP研究所 / 00/02/04

★★★★

軍事・兵器オタクが気持ちよさそうにしゃべっている本

 著者は軍学者を名乗る人。軍事・兵器に関するマニアックな著作が多いようだが、本書は問答の形式を使ってあらゆる分野に関して気持ち良さそうにしゃべっている本。

 まあ細かいオタク話は措いといて、興味をひかれるのはやはり核武装論である。『世界の紛争 日本の防衛』の江畑謙介や『戦略の条件』の田岡俊次などのそこそこまともそうな人も含めて、今の日本では、左も右も核武装を正面から論じるのは難しいという雰囲気があるが、今後は、本書の著者のように若いリアリスティックな世界観を持った人が日本の核武装を主張するという流れが現れてくるだろうと予想される。でも、政治外交に関しては動きが鈍い日本であるから、それがコンセンサスとなって実際に核配備に踏み切るというようなことは起こらないだろう、という「信頼感」を、日本人一般は日本政府に対して持っているんだろう。

 著者の核武装論の流れは比較的簡単で論理的である。要するに、東アジアにおいて通常兵器のレベルでは日本の軍備は非常に強いので心配する必要はない。心配なのは、中国・ロシアの持っている核兵器と、朝鮮半島の統一国家(統一された場合)が持つ可能性のある核兵器である。アメリカの「核の傘」には頼ることはもう不可能だ。したがって日本は核を持つべきである。

 実のところ、上のパラグラフの最後の文以外は、左と右の両翼の論者の多くが共有している考えだと思われる。だからいったん日本が核を持つ可能性というものが世論に浮上してきたら、左と右が一致して核武装を主張し始めることは十分に考えられるのだ。というよりも、アメリカと中国の間の緊張関係が強まったら、従来からの左も右も、また新しい形のリアリストもナショナリズムという点で収斂し、挙国一致体制になる可能性は強い。左は「アジアの安全保障のために日本が責任を持って傘の核を提供すべきだ」と述べ、右は「日本防衛のためには中国との核均衡が必要だ」と述べ、リアリストは「どちらの目的でもかまわないが、とりあえず核を持っておけば外交上のカードを握ることができる」と述べるだろう。

 そういうわけで、いったん日本の「核アレルギー」に綻びが見えたら、事態は一気に進みかねない。特に厄介なのは、現代アメリカ流の経済観念の後押しを受けて、核兵器配備によって通常兵器の軍縮が可能になる、という議論の通りがよくなりかねないことだ。このあたり、『大企業解体』で奥村宏が批判していたマル経学者の「転向」に似たことが起こるかもしれない。近い将来、日本の左翼の間に、ナショナリストとリアリストに反論するために日米同盟支持派に転向する人が出てくるだろう。

2000/2/11

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