限りなく人類に近い隣人が教えてくれたこと

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ロジャー・ファウツ、スティーヴン・タケル・ミルズ / 角川書店 / 00/01/30

★★★★★

手話をするチンパンジーに関する最新の包括的な報告

 著者のロジャー・ファウツは、手話を駆使するチンパンジーとして有名になったワショーを育ててきた研究者。スティーヴン・タケル・ミルズはノンフィクション・ライターである。チンパンジーを使った動物実験の反対運動で共に戦っているジェーン・グドールが推薦文を寄せている。

 ファウツがチンパンジーの研究を始めた1960年代から現在までの歩みを通時的に述べながら、ところどころに、チンパンジーの生態そのものだけでなく、言語学者との論争、アメリカのアカデミアに対する批判、動物実験に対する批判などを盛り込んでいる。手話をするチンパンジーについては、最近では『チンパンジーが話せたら』を読んだが、あれとは比べ物にならない細かい描写と情熱とユーモアの精神が入っている素晴らしい本だった。これは本当に面白い。

 言葉が喋れないでいる自閉症の患者に手話を教えると、病状が改善されるケースがあるという話が紹介されている。音に対する感受性に異常をきたしている患者でも、手の動きを見ることはできる。そこから外部とのコミュニケーションが再開され、ひいては声帯の動きも回復するというようなモデルが考えられているとのこと。ただしこれは古いケースなので、いまどうなっているのかはわからない。

 それに関連して、言語は手話から始まったのではないかという面白い仮説が紹介されている。たとえば「ライオンがシマウマを襲った」という内容を他人に伝えようとした人が、左手でライオンを、右手でシマウマを表現し、左手が右手を「襲う」ような動きをする。この動きには、主語、目的語、動詞の要素がすべて入っている。つまり、手話(より大きくいえば身振り)には、この単純な構文の概念が最初から入っているというのである。ちなみに手話を覚えたチンパンジーも、主語と目的語をはっきりと区別して使うとのこと。なお、手話から発話への進化には、自分の思考に合わせて手を動かすという行動を訓練しているうちに、声帯を動かすこともできるようになったという過程が想定されている。

2000/2/26

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