私は臓器を提供しない

近藤誠、中野翠、宮崎哲弥、吉本隆明 / 洋泉社 / 00/03/22

★★★

企画本としては完全に失敗しているが

 臓器移植に反対する10人の執筆者が、それぞれの立場から短いエッセイを寄せている本。洋泉社の新しい「新書y」というシリーズの第一弾である。この企画は完全な失敗だと思うが、冒頭の近藤誠のエッセイだけは良い。

 執筆者は、近藤誠(がん治療に関する異端の説で有名な医者)、阿部知子(小児科医。「脳死・臓器移植を考える委員会」代表)、近藤孝(脳神経外科医)、吉本隆明、小浜逸郎、宮崎哲弥、山折哲雄、平澤正夫、中野翠、橋本克彦。阿部知子と近藤孝の2人は、臓器移植反対運動にコミットしている立場からの、ある意味で普通の指摘。あとの7人はワイドショーのコメンテーター・レベル。

 近藤誠は、1992年6月号の『科学朝日』に掲載された「『脳死移植』の意外な落とし穴」と題する記事の要点を再掲している(20〜22ページ)。本書はこのリストで救われていると言っていいほどの的確なまとめ方だった。

 宮崎哲弥は、日本での臓器移植を巡るバイオエシックスに関する議論について、「日本における脳死論争が世界的に見ても高水準」であると言い、アメリカの宗教学者、W・ラフレールが、臓器移植を急速に進行させてきたアメリカ国内に反省の声が上がり始めていると言ったことを紹介している。日米のバイオエシックスの奇妙なねじれについては、米本昌平の『知政学のすすめ』が興味深かった。宮崎哲弥と米本昌平の2人は、正反対の立場から同じ現象を見て、まったく別の解釈を引き出している。結局のところ臓器移植と脳死に関するバイオエシックスは、一般大衆の中にある臓器移植と脳死に対する違和感をいかにして緩和するかという方法論であったといっていい。これが日本では遅れていることに、宮崎はそれに反対する立場の議論(これはエシックスというよりも宗教というべきだと思う)の強さを見て取り、米本は推進する立場の議論の弱さを見て取るのである。

 しかしどちらの立場も、『人体部品ビジネス』に描かれているような現実の前には無力だろう。人体部品の商品化への流れは押し止めることは不可能であり、それが進行するにつれ、バイオエシックスと宗教の戦線は位置を変えていく。宮崎の立場と米本の立場の間の論争は、このシフトする戦線上で今後も行われていくだろうが、戦線のシフトそのものにはほとんどインパクトを与えないと思う。

2000/3/18

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