ハンニバル

Hannibal

トマス・ハリス / 新潮社 / 00/04/10

★★★★

レクター博士のなんとなくクリスタルとジェームズ・ボンド化

 レクター博士の、『レッド・ドラゴン』と『羊たちの沈黙』に続く第3作。おそらくこれが完結編ということになるんだろう。

 この『ハンニバル』が変な感じになっているという話は聞いていたが、読んでみて驚いた。『なんとなくクリスタル』みたいなブランド小説化およびグルメ小説化している。それだけでなく、レクター博士がジェームズ・ボンド化している。シリーズのこれまでの作品では、レクター博士が窮地で見せる冷静な反応が、彼の人格の本質的な欠陥(要するに常人の感情を持っていない)を示唆していて非常に怖かったのだが、この『ハンニバル』では、窮地に陥ったロジャー・ムーアの鈍重そうな顔が映像として浮かんでくるのだ。自らのヒーローとしての地位に安住しているとしか思えない。

 そう考えると、ヨーロッパの古都を舞台にし、高級なワインを飲み、美女を侍らせるなどの点でもジェームズ・ボンドに似ているように思えてくる。しかも今回は悪い奴をやっつけるだけだし、登場人物は(クラリス・スターリングも含めて!)みんな平板。

 さて、これはトマス・ハリスが仕掛けた大がかりな冗談なんだろうか? これを本気で書いたのだとしたら、結局は『羊たちの沈黙』を超えるものが書けずに、ヨーロッパ趣味に逃げたということになるんだろう。冗談だとしたら、これはかなり意地の悪い試みであり、終わり方はかっこいいと思う。これはティム・バートン的なブラック・コメディのかっこよさであり、トマス・ハリスにそんなことができたのかという新鮮な驚きがあるのだけれども、『ブラック・サンデー』、『レッド・ドラゴン』、『羊たちの沈黙』と、そういう冗談に逃げない王道を歩んできた彼には、やはり王道の小説を書いてもらいたいものだという気持ちもある。

2000/4/16

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