日本経済の油断

アメリカン・バブルの行方

嶋中雄二 / 東洋経済新報社 / 00/05/11

★★★★★

景気循環の立場から見た今後の世界経済

 著者は三和総合研究所投資調査部長。1987年の『太陽活動と景気』は読んだ記憶がある。景気循環と太陽活動の周期を関連付けて述べた本だった。

 本書は、「ニュー・エコノミー論」が流行った昨今ではいくぶん古臭くも見える景気循環論に基づいて、アメリカ経済が後退し、それが世界恐慌とも言えるような事態を引き起こす可能性を指摘する本である。2000年4月に入ってからのNASDAQとDOWの不調を受けて、日本の株式市場も不安定さを増しているいま、このシナリオはますますありえそうに思えてきているが、ほんの数か月前にはかなり違った受け止め方をされていただろう。まことに変化のペースは速いものだ。

 アメリカ経済の加速度が落ち、それに伴って株価が低下し、個人の消費が冷え込むというプロセスは、普通言われているものと同じだが、アメリカの株価が下落して資金がアメリカから流出したときの影響を、「ハイエクの三角形」と呼ばれる資本財生産部門と消費財生産部門の関係を示した理論を世界経済にまで拡大することによって、資金が資本集約的なセクター(アメリカ)に投下されている状況から労働集約的なセクター(アメリカ以外)に移動すると、経済がグローバルな規模で収縮を始めるというふうに予測している点が興味深い。これが本当に正しいのかどうかは私には判断がつかない。まず、労働生産性が景気にどのように効いているのかがそもそもわからない(本書では単純にIT革命による生産性の向上->インフレとは無縁の経済成長というロジックを使っているが、このロジックが疑わしいことについてはたとえば『競争力』を参照)。また、株価が下落したときの為替レートの変化が、このハイエク流の理論にどのように組み込まれるのか、私にはよくわからない(直観的には、流出を妨げるスタビライザーの働きをするが、かえってそのことが資金の非効率的な分配を引き起こすようにも思える)。

 第2章では、建設投資循環、すなわちクズネッツ・サイクルがアメリカの景気後退のインディケータであると主張している。アメリカの建設投資は1998年9月にピークを打っているらしい。その他、1929年以降の大恐慌と現代の様子の類似点をいろいろと並べている。そのあまりの似かたは不気味だ。

 第3章では、一転して日本経済の景気循環を論じている。日本では設備投資が底を打って回復基調にあるけれども、その他のサイクル、とりわけ建設投資循環の下降傾向が強すぎるため、設備投資の波は打ち消されてしまう可能性があると述べる。特に、複合的なサイクルが上向きに転じる前に、設備投資の循環が再び調整局面を迎えてしまうというシナリオもありえる。

 最後の第5章では、日銀は量的緩和を積極的に行っていくべきであると提言する。これはGDPギャップを埋めるための手段であり、うまくコントロールすればただちにインフレにつながるとは限らない。

 個人的な意見。本書で述べられているようなシナリオに沿って、アメリカの景気が後退局面を迎えたときに、アメリカの輿論に、いまは肯定的に言われているマネーの動きのグローバル化に対する反動が生じるだろうと思われる。これに応じて、アメリカの当局は、いろいろな保護主義的なポリシーを採らざるをえなくなり、その結果、グローバルに見た場合の資金の効率的な分配が損なわれるということが予想される。そうなったときの国際的な緊張関係が怖い。

2000/5/6

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ