脳治療革命の朝

柳田邦男 / 文藝春秋 / 00/03/01

★★★

甘ったるいノンフィクション

 相対的に日本で進んでいるとされる脳低温療法に関するドキュメンタリー。これまでならば回復の見込みがなかったような事例に、脳低温療法を適用して成功した事例を紹介している。著者の息子の自殺を扱った『犠牲』以降の、ジャーナリストとしての客観性を失ったと思しき仕事の1つ。

 失敗の事例が取り上げられていないこと、生存者のクオリティ・オブ・ライフという観点からの検討が不十分であることに不満がある。また、本書でも反論はしているけれども、この療法によって生存率が高まるということの科学的証拠が不十分であることや、医療費の増大という問題ももうちょっと考えなくてはならないだろう。これらの問題を総合的に見れば、脳低温療法にはもうちょっと懐疑的な態度で接してもよいはずだ。それがそうなっていないのは、単に、上に述べたように、著者が客観性を失っているのが原因だという印象がある。

 とはいうものの、これが先端的な医学であり、興味深い要素をいろいろと含んでいることは間違いない。特に脳死と臓器移植という問題から見ると、脳低温療法でも脳死状態の患者は救えないにせよ、ポイント・オブ・ノー・リターンが従来からシフトしたということはたしかである。

2000/5/6

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