日本経済の変容

倫理の喪失を超えて

伊東光晴 / 岩波書店 / 00/04/07

★★★★

好ましい印象

 『「経済政策」はこれでよいか』の著者による本。『「経済政策」はこれでよいか』と同じ時期に書かれた文章をまとめたもので、いくぶん論争色が弱いように思う。前著とは違ってかなりの好印象を受けた。

 特に興味深いのは、著者自らの各種の審議会での経験をもとに、NTTの独占問題についてかなり突っ込んで議論している第4章だった。市場の独占の損益についてはケース・バイ・ケースの考察が必要になるが、通信インフラの成長をNTTの独占が阻害してきたために、消費者が不利益を被っていることは間違いないということは、コンピュータのユーザーならば誰もが思っているだろう。携帯電話の分野でも、独自標準を採用したせいで世界から取り残されるというシナリオは現実化しそうである。いま注目されているiモードは、近い将来、PC-9801みたいな運命を辿る可能性が高い。

 もう1つ好感を持ったのは、貧富の差の縮小を経済政策の重大な目標の1つと位置づけるという立場を、衒いなしに打ち出しているところだ。もちろん著者がいかに力強く主張しても、事態は拡大の方に着々と向かっていくだろう。そういう意味では時流にそぐわない主張ではあるんだが、何の疑問も抱かずに流れに棹さす言説が多いだけに、ほっとした気分になったのだった。

 とはいうものの、『日本経済の油断』の項でも述べたように、メインストリームの論調が、いまの市場原理主義から統制主義に移るのはさほど遠い未来ではないのではないかとも思う。ひょっとしたら5年ぐらい?

2000/5/6

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