安全保障論

21世紀世界の危機管理

森本敏 / PHP研究所 / 00/05/08

★★★★

姿勢の偏りはともかく、網羅的なテキスト

 著者は防衛庁、外務省、野村総研を経て学者となった人。安全保障の概論を述べ、世界各地の安全保障の現状を解説し、日本の現状を解説して将来への提言をするというきわめて野心的な本。気軽に読むものではなく、不必要なんではないかとまで思えるくどい説明が詰まった包括的な本。軍事の細かいデータではなく、全般的な安全保証に焦点を当てている。

 日本の将来については、アジアの米軍のプレゼンスの削減に伴い、日本の軍事力を増強することは不可欠だという立場を取っている。

 TMD(戦域ミサイル防衛)の日米同盟関係にとっての意味について論じた部分(439ページ)。

第一は、冷戦後の新たな地域諸国のミサイル脅威に対し、日本が米国よりTMDを導入して、日米が協力してこのような脅威に対応するということが、日米両国の同盟関係強化にとって不可欠であるという側面である。逆に言えば、日本がTMDを導入しないという決定を行うことは、米国からみれば、日本が北朝鮮や中国、ロシアの核脅威に対し、日米安保体制から独立して、独自に対応せんとする意図の表れであり、TMDを導入せず、いずれはこれを核武装をもって対抗するかもしれないとの恐れをもたらすことになる。そのことは、米国のみならず、他のアジア諸国にとっても懸念となるであろう。中国は、日本がTMD導入を決定すれば、これを批判すると思われるが、本音は、日本が日米同盟の枠内にとどまっていること自体は安心材料であるに違いない。

 物は言いようと取るか、なるほどと納得するかは人それぞれだが、興味深かったのは冷戦時の核抑止理論が無効になった世界で、米国がNMD(国家ミサイル防衛)システムの開発を重視していることが、ヨーロッパ・アジアの同盟国に対する核抑止とのデカップリングを引き起こしかねないという指摘だった。冷戦下でのMADを初めとする核均衡の理論は、対立する両国の核攻撃に対する脆弱性を保証しておくということ(ABM体制)を1つの根拠としてきていた。核拡散によってこのような体制が崩れ、「核の傘」の効果が大幅に減少したと思われるいま、上記引用文にあるように、日本がTMDを導入しないことが、日本が核武装するというメッセージになるということが仮に本当だとしても、日本がTMDを導入することが、日本が「日米安保体制から独立して核武装をする」ということをしないことの明瞭なメッセージになるかどうかはまた疑問だろう。TMDをアメリカから買うことが日米同盟を担保する、という側面はまああるとしても。

2000/5/14

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