バレエの魔力

鈴木晶 / 講談社 / 00/05/20

★★★

バレエの入門書

 バレエに関する啓蒙書。特に、バレエを見に行くインセンティブがない「日本の普通のおじさん」に対して、バレエの魅力を訴えるというコンセプトで書かれている。どうやら、世の中にはバレエは女子供のものであるという「常識」があるようで、それに対する反論として、バレリーナの肉体美鑑賞という側面を強調している(それだけではないが)。

 正直に言わせていただくと、私は、どちらかといえば肉づきのよい女体が好きなので、典型的なバレリーナの肉体を鑑賞して嬉しかったという経験はほとんどない。似たような傾向を持っている人は、本書の主張を信じてバレエを見に行くと失望するかもしれない。そうでない傾向の人も、ストリップやレヴュー(もう存在しないけど)の方がずっとコスト・パフォーマンスが高いだろう。

 まあしかし、古典的なバレエ(ロマンティック・バレエとクラシック・バレエの両方)に性のニュアンスが充満していることは間違いないと思うし、私はそのことに辟易することが多い。ヴィクトリア朝のモラルとそれに対する抜け道を、そのまま現代に引きずっているという感じが強くする(男性ダンサーと女性(とは限らないが)の観客という組み合わせは20世紀的だが、その姿勢はヴィクトリア朝的といってよい)。男性ストリップが市民権を得れば、女性の観客も少なくなるだろう。これだったらビジュアル系ロックバンドに熱狂する少女たちの方がまだましだと思うことが少なくない。「普通のおじさん」がバレエを見るのをためらう理由の1つはこれなんじゃないかと思うこともある。

 本書では古典的なバレエに重点が置かれているが(これは普通のおじさんのための啓蒙書であるということを考えれば妥当なことだが)、実際に面白いのはほんのちょっと触れられている現代的なダンスである(175ページ)。モーリス・ベジャール(個人的には鬱陶しくて嫌いだが)、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイスの名前が挙げられているが、こちらの方に重点に置いた方が素直に受け入れられるかもしれない。ヒップホップ・ダンスを見慣れている若者には間違いなく合っている。私の希望は、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス、マッツ・エックのような人々が、アメリカのヒップホップ・ダンサー、とりわけオールド・スクールのダンサーたちと組んで作品を作ってもらいたいというものなのだが、これはパンクラスとリングスの交流を望むというような無理な注文なんだろうか。ちなみにベジャールは新日で、古典的なバレエは全日。ちょっと比喩として無理があるか。

2000/6/2

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